ノーマルSUキャブの加工(その2)
前回は現状のままでメインジェットに注目して加工を行った。小誌に載せたところ、エンスージャストと思われる方からメールなりいただいて、僕としてもずいぶんと勇気づけられた。
残念なのは、僕の使用状態と、連絡をいただいた方の使用状態が同一ではない、という当たり前のことが動画でないと理解しづらい。これまた道理である。
さて、前回でお知らせしていたように、スプリング、ニードルジェットなどを発注してどうであったか、を報告するところだったのだが、チョイとつまずいた。ご一読あれ。
報告することは決して万人の求める方向性とは違う。あくまで、僕の好みに向けたSR500にしたい、という気分で行った加工である。参考とされるなら、その点を考慮願いたい。また、純正パーツを使用しても、あくまで改造の範疇である。実施に当たるときも、その後の結果などにおいても、全てにわたってご自身で責任をとられるようお願いしたい。
前回のまとめと写真、図の掲載
前回のメインジェットの加工において、燃料吸入口をストレートと申し上げた。今回、数個#165のメインジェットを取り寄せリューターで加工を行った。その時に気付いたのがマイナスドライバーの溝から奥、#165の径まではロート状になっていることを発見した。したがって、加工自体は前回の方法でいいのだが、実際は少々違っていた。
そこで確実に作業を行うにはどうするか?。まずは加工後の写真と断面図を記載した。
2001年 2月10日
メインジェットの加工
最初は吸入口をロート状に加工する、その状態を若干狭めたものを装着してのテストを行う。
ラフな感覚で行った前回の加工品では起こらなかった4000rpmの悶絶が始まる。が、高回転域にかかってもスロットルワークに注意すれば、結構いい状態で行ける。この程度の加工でこれだけ変化するのなら...
、次はニードルジェットの変更を行わないとならない。結構シビアなセッティングになるのは否めない。
続いてノーマルの#170にしてみた。けれどもモヤモヤは消えない。4000rpmの悶絶をできるだけ回避しよう、というロート状の加工を狭めたものでも見られたキャブレターの独自性もない。
その代わりリッチな気分で、まるでオートマの自動車のように走る。これはこれでいいかもしれないが、スポーツ性は全くスポイルされる。#5違いでこのくらい変化するのだから、前回の加工がまんざら偽物ではない、という確信に似た状態になった。
再び前回の加工品を装着する。見事に4000rpmの悶絶状態も起きないし、希薄燃焼状況も感じられない。ごく普通に空気を吸入し、キャブレターで燃料と混じり、適した混合気にしてシリンダーの中に送り込む。エンジンは過不足無くアクセルワークに反応している。こういった感覚に加えて、「ご主人様、この程度でよろしゅうございますか」とでも言っている気分になる。
もちろん、メインジェットの加工だけに留めた走行実験だが、この面に関して、僕のSRには空気の流量など、エアクリーナーボックスを改造しているので一般のSR500とは異なる。そのため、少なくとも全てがオーナーの望むSR500になるような方向にフィットするわけではない。
これらの点から、メインジェットは#165でOKであることが理解できた。そこで、とりあえず、これらの結果を参考にメインジェットの加工はどうすればいいのか、に集中することとする。
参考書として選び出したのが、古い書籍だが小関和夫氏の記した「カスタムバイク・ハンドブック(CBSソニー出版)」である。これを読む。バイク全般にわたって、かなりの所まで記載してある。そこにあったデロルトのメインジェットの写真を見て、メインジェットの燃料吸入口の加工がされているようなのを発見。
この写真を見て、ミクニのリバース型は燃料吸入口から奥が深い(距離が長い)。最初に行ったように、いたずらにロート状を広げてもダメなのではないか、と気付いた。
最後の一個を加工したのが今回掲載した写真と断面図だ。
断面図からも分かるように、加工するには円錐型のリューターを使用して、根気よく低回転で少しずつ燃料吸入穴の面取り作業を繰り返し行う。また、面取りとはいえ、吸入口をなだらかな逆アーチ状に広げることが肝心だ。今回の作業の逆をやって、AMALとかミクニの六角形のメインジェットのように臼状の凹みにすると、おそらく4000rpmぐらいで起きる悶絶状態は消えないはずだ。
ニードルジェットの形状について
SRのキャブはセローのキャブレターと共通だから、セローの最新のものを入手したが先端が丸い寸胴タイプであった。現行のセローでは、すでに排ガス規制をクリアーしているため、薄目のセッティングになっているのであろう。SRのそれは先端にいくにしたがって細くなっていて、わずかに高速型になっている。2LNというダイアフラムと同じナンバーでニードルジェットを探し出して発注。入手したものはSR用のものとニードルジェットの刻印が同じであった。何というアホクサさ。バイクのパーツはまだまだ自動車ほど共通化が進んでいないようだ。
現時点では、ニードルジェットのリプレース品をヤマハのパーツリストから探し出せていない。この形状については今回実験が出来なかった。
スプリングの形状について
スプリングは2LNのものが短いのだが、コンプレッションが強い。したがって3GWのSRのものを使用することにする。スロットルピストンの負圧供給穴を広げようと思ったが、この部分は、どの程度の大きさにすればいいのか確認が取れていないことと、少し大きくしてもニードルジェットの挿入穴に干渉するため、底の部分だけを面取りし、内部の数ミリをペーパーを丸めたもので修正しておいた。
あまり関係ないが、平たいピストン部分も、エンジン側にある4個の凹状部分の面取りを行った。
走行結果
始動は少しばかりこつがいる。デコンプを引くことは同じだが、今までのように早期点火か後で火が飛ぶような、どこからでもエンジンが回るとか、キックバックの感覚がない。したがって、じっくりと下側までキックアームを踏み下ろすことと、始動時の急激なアクセルワークは慎むことが肝心だ。このこつさえ掴めばOKである。
走行して感じるのは硬質の振動だ。決して不愉快ではない。走行状態はいつも通りだが、押し殺したような振動ではない。90km/h付近でも振動は一時的に細かくなるが、決してバイブレーターのようなものではない。ノーマルに比べて硬質、というものだ。僕にはむしろ好ましい、と感じる。
どのギアでも4000rpmになっても悶絶は起こらない。スムースとはいえないがまぁまぁの加速感である。寒いという天候も関係しているが、この快調さからバイクから下りたくない、という面に加えて、操る楽しさが増したように感じる。
失礼ではあるが、500ccのSRが持つ独特のものに加えて、軽量化などでは出来ない一種のカスタマイズされたMY
SRになってきたように感じた。僕がエンジン内部に手を入れないのは、国内仕様そのものが悪い、とは感じないのである。わずかに圧縮比の上がる48Uのピストンを組み込むのなら、現在のSRに戻ってきたXTのブローバイガス還元装置のため、エアクリーナーボックス自体をはずした方がいいようにも感じる。
今後長い距離を走ったときにどうなるかなど、まだまだ終わりそうもない。
考 察
とうとうメインジェットにまで加工を施してしまうことになった。この改造修正は決して一般的なものではない。けれども僕としてはこのSUキャブレターに未練がある。スタータージェットとメインジェットだけでの調整だ。ニードルクリップは一段下げている。ミクニ通商へ、このジェットの加工したものを送ったところで、気にもかけていただけまい。ま、自己満足だ。
メインジェットの真の番手部分までの距離は明らかにデロルトより長い。この点は失敗だ、と僕は思う。ケイヒンにしても短いからだ。どうやら内部の真の番手位置は外周に掘られた溝の位置に一致するようだ。この部分までが短い(低い)と燃料吸入口から内部の真の番手の部分までの距離が短い、ということになるようだ。
今回は断念したが、仮にニードルジェットのテーパーが鋭いもの、スプリングの弱いものが入手できれば特性が変わることになるのは明白だ。それほど現在のSUキャブレターは進化している、と感じた次第だ。
しばらくはこの状態で乗ってみたいと思う。
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