SR純正MIKUNI BST 34キャブレターの検証 
まえがき

 僕のSR500もずいぶんと古くなった。もう6年の歳月が経過する。こんなもんで書き出すとそろそろ別のオートバイに変更するのか?と思われがちだが、そういったことは一切無い気分なので一応安心していただいて(爆)本題へ入ろう。
 2002年 7月、回り回ってノーマルの状態に戻した。特に純正マフラーに変更したときの安定性は目を見張るモノがあった。どこといって特定はできない。ま、「全てにわたって良好な状況がいついかなる時でも発揮できる」ということが確認できた。
 ただし、この状態でしばらく乗ると、レスポンスの状況がどうも思わしくない。ここがそもそもの始まりで、とにかくWBのスーパートラップにマフラーを換え、次は妙な意地を張ってストックのキャブのままで対処する方法を採って、一定の結果を出したのがこの6年間で、回り回った結果、どうもマフラーに調子云々の要因が隠されているという考えになり、またぞろ購入時のように元に戻した。
 カンリンの重量フライホイール、ダイシンの乾式クラッチ以外の機関(基幹)を純正状態に戻してほぼ1か月、しばらくそれで乗っていたが、どうしても購入時からランニングインが終わった頃のような感覚になってしまう。ひょっとして、またマフラーを換えたりしてしまうのではないか、と思いがちだが、今回は少々コトが違う。マフラー容量に関してはおよそのことが解り始めてきた。しからば、排気がノーマルなら吸入側が本当にノーマルの状況でいいのかどうか?、今回はここに注目してみたので、それを紹介しようと思う。
 どうしても僕のホームページは月刊なため、結果のリサーチを僕自身で行って良好なら、ご覧になる方には一気に報告しなければならないが、リアルタイムの報告はできない。併せてテキスト主体なので写真などがあまり掲載できない。その点を了承願いたい。
 もう一つ危惧するのは、同じSRでも僕のは500ccモデルだ。それにBST 34のこのタイプのキャブレターを装着している種類は旧型になって、これからSRのオーナーになろう、という方には一部参考にならない点が多いかもしれない。このことも了承願いたい。

 はじめに
 1996年に今のSR500を購入後ホワイトブロスのエキゾーストシステムに交換して、キャブレターを触った。その状況はこれまでのところで良きにつけ悪しきにつけ報告しているので、それらをご覧いただきたい。
  話は変わって、純正マフラーは相当に効率がいい、ということは以前から報告されている。疑いの感じをお持ちの方が多いようだが、3GWの刻印のあるものなどは重量とサウンドを除いて、ほぼ完璧といっても差し支えない。特に500ccモデルにはそれが顕著に現れる。
 そういったことと、これまでの僕の実験結果を総合して考えると、吸排気系はノーマルのままで何とかしたいと考えるようになった、その何とかは「レスポンス」である。特にジワーっと上がる今のアクセレーションをもう少しピックアップのいいものにしたい。しかも純正のBST 34を使用して... 。
  ここから始まるのである。自分ながらおかしいのだが「以前も同じ言い回しをしている」ということに気づく。が、今回は純正のマフラーを使用してだから、状況は少々異なる。

考え方の基本
  まず考えたのはダイノジェットの負圧キャブ改造キットだ。ピストンの負圧取り出しようの穴を拡大し、制御スプリングを弱いものに変更し、レスポンスを向上させる、というものだ。
  ところが、キットとして同じキャブを使用したセロー用はあるがSR用というものはない。制御スプリング条件など、ずいぶんとセローとはキャブの内部パーツが異なるため、同一の方法は採れない。しかも排ガス規制後のセローはキャブレターの内部が変更されているから、ダイノジェットのキットもそれなりの年式のセローに合わせなければならない。
  この改造に似た方法は過去僕が行っているので参照願いたいとして、どうして再度ここにダイノジェット風の改造を出したか、というと、スロットルの開度に対する反応(いわゆるツキ)の良さを発揮させるにはこの改造が一番適している、と考えたからだ。
  再び取り外した最初のダイアフラムの負圧取り出し用の穴を確認する。純正は2mmの穴がニードルの穴の横に1か所開けられている。以前の改造でここを3.5mmに拡大して結果が良かった。が、弊害はフラットなバルブの片側に傷が付く点である。この原因が何か?。おそらくは排気に対して吸入速度が上がったためではないか、と感じている。
  それなら、両方に同じ穴を開けて装着してみればどうだろう、と考えがまとまった。
 
2002年 8月19日(月)
 昼休み、職場のボール盤で同じ穴を片方にも開けた。帰宅してSRに対峙する。慣れたもので30分で装着変更完了。早速いつものコースへ。
  始動性が著しく向上しているのにまずびっくり。これにはマイッタ。エンジンのピストンが排気行程以外ならどの位置からでもエンジン始動が簡単だ。ウソかと思って、ウォーミングアップの後数回繰り返したが、始動性の良さは変わらなかった。
 出発して10分も過ぎただろうか。帰宅を急ぐ車の流れに入り込むのを避け、単独で走れるように待つ。このときの気温が30℃前後、アイドリングはぴたりと1100rpm辺りをキープしている。すばらしいものだ。
 が、これでいいな、と感じた矢先、50km/hで走る自動車に追い越しをかけるが、4速に落としても回転が4000rpm以上にならない。スロットルはフルオープンだ。
 道路が空いた時点で数回やっても同じ。謎が解けないまま帰宅してしまった。

考え方の基本
 気分を落ち着かせて考えをまとめたところは以下のとおりだ。

1.良好な始動性
2.アイドリングの安定
3.負圧の取り出しによる効果の増大
4.アクセル開度に応じない回転

 1.と2.はそのままノーマルの向上型として考えられるが、
 3.は「おそらく」というところで、4.だけは何とかしなくてはならない。
 1.と2.が結果から出されたいい面での効果だが、ノーマルでも慣れればこのようになるし、パイロットジェットの調整だけでも吸排気系に手をつけていなければ、ほぼ当たりのついたエンジンではOKとするポイントだから、改造如何によって、ある程度この面が落ちたとしても問題はあるまい。
 4.だけは何とかしなくてはならない事項ということは明白だ。

 そこで、負圧キャブの動作を再度確認すると、スロットルバルブ(ピストン)はそれ自体は直接動かしようがない。アクセルに接続しているワイヤーはインマニ前のバタフライの開度調整のためだけだ。
 キャブの作動を順に追ってみると、始動後にパイロットジェットから流れたガスが混合気となってマニホールドへ送り込まれる。アクセルグリップを回し始めるとバルブの手前にあるバタフライが回転し始め、陰圧となったダイアフラムが収縮しスロットルピストン(バルブ)を上げはじめ、連動してニードルの隙間から燃料が送り込まれる。
 この時点で、制御スプリングはスロットルピストン(バルブ)をバタフライの開度に応じて適切なガスを送り込むよう、ダイアフラムの動きを一定にしようとするわけである。
 ここから判断すると、制御スプリングを格段に弱くした場合にどうなるか、ということになるのだが、若干問題点が残る。というのも、ダイノジェットが対応させている大半の負圧キャブはスライドバルブが円柱ピストンだ。したがって、これらのキャブに対応させているキットはスライドピストンの重量、それに対する制御スプリングの強さなどの設定が比較的簡単なように僕は判断する。
 一方SR純正のBST 34ではこれがフラットバルブ(ピストン)になるため、円柱ピストンよりも比較的敏感に動作するのではないか、と考えた。これらはFCRでも、レクトロン、ブルーマグナムでもご存じのとおりだ。そのために、ある程度の負圧取りだし用の穴の口径を大きくする効果はあるが、制御スプリングの巻き口径が細い中でレートを下げるには、僕が行った程度のものでは対応しきれないようだ。
 当然、負圧取り出し穴が拡大するとダイアフラムの動きが敏感になる。今回の僕の改造はこの確認は取れたが、スロットルがフルオープン(バタフライが水平)になっても、制御スプリングが強すぎるために、スロットルピストン(バルブ)が上がらない状態になってしまうことによって起きることであろう、と推察した。
 こう考えてくると、バネレートが弱く、スプリング巻き径も大きくできない純正キャブでは、ピストンの負圧の穴を加工するのではなく、制御スプリングから先にレートを下げる試みを行った方がいい、というように感じ始めた。
 その日(8/19)寝る前に、新しいダイアフラム(スロットルバルブ)の金属部分のバリなどを取ってスムースにしておいた。制御スプリングは古い加工したものをさらに10mmカットして、切断面を修正し、若干引っ張って伸ばしておいた。
 長さの修正はストックが負荷をかけない状態で95mm、縮めた状態で20mmである。単純に割り算すると4.75である。
 それに比べて修正したものは合計で20mm少なくなって、スプリング間の長さ(ピッチ)を3mmから4mmへ伸ばしたために、全長で88mm程度とした。縮めて16mm程度、割り算すると5.5になる。この状態でもフニャフニャ感が無いため、同一材質でピッチを荒くしてレートを下げる簡単な加工は限界だ。また、スプリングの巻き線内部に少し大きい円柱状のものを挿入してスプリング径を拡げるのも、フラットバルブのため、ピストンに干渉するおそれがあって加工できない。
 ここまでにして全ては翌日に再び試みることとした。

スプリングの実際
 ノーマルと加工品の状況は以下の表のとおりだ。
 スプリング両端の加工部分の重なり状況、およびスケール上の目視の目の位置とスケールを当てた時のわずかなスプリングの縮み方で若干長さが異なる。しかし、アマチュアのエンジニアとしては、この程度は気にしなくてもいい(爆)と思うので、ご了解の程を... 。
 
 

 
スケール目視の長さ
スケールを当てた長さ
巻 き 数
純  正  品
95mm
90mm
35ターン
加  工  品
88mm
82mm
28ターン

 

インターミッション
 とりあえず、BST 34というこの純正キャブレターはどういったフィーリングをもたらせるのか、その表現ははなはだ難しい。特に発売台数が格段に少ないSR500ではいくら説明したって多くの方々には解っていただけない、と思う。
 方向を絞ってカスタマイズを無理矢理やるとそれなりのパフォーマンスは発揮するが、ノーマルの安定した状態は一気に壊れる。逆に思えば、通常では「走らない」と感じさせる要素が多分にこのキャブレターに背負わされているようでならない。ヤマハの言い分は「トルク感を増し、走りに余力を与えている」と表現するだろう。しかしながら、実際は違う。
 まるで排気量が少ないのではないか、というほど軽快で従順、1/1のプラモデルという表現がピッタリのSR400に比べ、鈍重で遅く、触ってヘタをすると一層遅くなってしまうSR500なのである。キツイ言い方かもしれないが僕はそう感じている。
 なぜ、こうまで表現してもなおSR500を支持するのか?。それはXT500から最初期型のSR500を乗っていた僕がSR500が持っている潜在能力の一端をノーマルの状態で出させていない、それが発揮できるようになったのなら... 、と、二十数年間ずっと考えているからだ。
 僕の500は、もはや旧型、しかも今ではディスコンになってしまってはいるが、この点から考えると、多くの面が400と共通に近代化されるなか、シリンダーとピストンはXT500のまま。そういった忘れ去られた状況でも、最近になってエキゾーストパイプなど500専用になっているものもあるのだから、走らない原因の一助はこのキャブレターに要因があるのではないだろうか、と感じている。

最終変更
  そこで前日の結果からキャブレターの対応状況を机上で考えてみた。

1.ダイアフラムと制御スプリングの関係と組み合わせ
ダイアフラム 制御スプリング
純 正 品 純 正 品
改 造 品 改 造 品
純 正 品 改 造 品
改 造 品 純 正 品

が考えられる。

 純正品と純正品はノーマルに戻したときにやった。
 改造品と改造品の組み合わせも行った。
 最終の改造品とと純正品の組み合わせは、昨日(8/19)の状況からすれば、まず難しい問題が出てくると予想され、割愛する。残りは純正品と改造品の組み合わせだ。

 まずはモトリバティーのホームページからダイノジェットの項を探しだして確認をすると、対応車種にはすべて「ニードルジェットとメインジェットはダイノジェットで開発したものに交換する」とある。この時点で、最低でもダイアフラムは改造しなくてもいいということが解る。
 で、同じキャブを使うセローではステージ2の仕様だが、穴を拡大せよとか、ダイヤフラムとかスプリングを換えよとは指示していない。エアクリーナーをK&Nの効率の高いものに交換するように、というのだけだ。
 もう一点はダイノジェットの専用メインジェットの記述だ。SRに対して書き換えすると#162.5の低域と中域はいいが、#160の広域はすさまじいものがある。これらの両方を兼ね備えるものとして専用ニードルと専用#162,5のメインジェットを装着するようにして全ての帯域で良好な状況にするようにしている、というものがあった。

 上記の点を総合して僕なりに、
 ●ダイアフラムの改造はしなくてもいい。
 ●メインジェットは先細りのタイプなのでこのままでいい。
 ●アクセレーションは昨日の結果とダイノジェットの記述から判断すると、純正より柔らかなものを装備すればいい。
ということが判断できた。

 問題はメインジェットだ。
 メインジェットは燃料の吸入状態を向上させるように改造したもの。この条件を満たすものとしては僕が改造したミクニの#165だ。しかし、ニードルがストックのままだし、ノズルの状況から改造品ではフィットしない面も出てきそうだ。
 そういったことを考えながら、POSHのリプレースメインジェットがあるのを思い出した。ミクニと比べると、若干ノズルの状況が異なる。今回はPOSHの#165を使用してみることとする。このメインジェットに関しては今後の課題としたい。
 
2002年 8月20日(火)
 朝夕はめっきり涼しさが増した。職場で机上論をまとめ、午後5時20分よりSRに取りかかる。気温は30℃を少し超えた状況。湿気が少なく風が少しあってずいぶんと秋めいている。今回はメインジェットも交換したので15分程度余計に時間がかかり、午後6時の出発となった。
 始動性は昨日の方が格段にいい。ま、今回も許せる範囲だ。ウォーミングアップ後出発。国道に出るやいなや唖然とし始めた。ヤヤ、これはガソリンが少ないために起こるためかもしれない。いつものモービルを入れて、いよいよ本番。心なしか余裕すら感じ始める。先ほどの「ヤヤ」という気分が変わらない。どうもタンク内のガソリンの量が原因ではない。
 務田の坂を一気に駆け上がり三間街道へ。何という気持ちよさだ。これが今までのSR500か。大木木材の前で停車して自動車の流れを先に行かせる。数分後切れ目がずいぶんとできたので再出発。圧倒的なパワーは感じないまでもエンジンの回転上昇が直線状に4000辺りまでスーっと上がる。アクセルオフでも急激に回転が落ちない。バックトルクリミッター装着をしたような感覚だ。
 そのかわり5速が使いづらい。4速の守備範囲がずいぶんと広がる。むしろシャクリ感が強いので以前のXT500の感覚が出てきて、カンリンの重量フライホイールで緩和されているようないい感覚になってくる。広見の最後の信号で止まって向かいから来る汚いSR400をニヤリと右折させる。アイドリングは1100回転付近を示したままだ。安定させるにはこれを過ぎるぐらいにすればいいのだが、重量フライホイールの関連もあってこの程度で止めておく。
 最終の水分まで突っ走って格段にレスポンスの向上したSR500に今乗車している、という素晴らしい感覚が支配し始めた。登りでも下りでもエキゾーストノートはパタパタポコポコと軽快だ。乾式クラッチの音に消されてしまうが明らかに力強いパルスである。感覚としてR100RSぐらいまでのBMWのサウンドに近い。午後7時前に到着。
 静かだが大きな感動のようなものがつきまとい、夕食を食べる気がしない。興奮しているのでもない。秋めいた空気のせいでもない。
 とにかくSR500の一つのファインチューニングがもたらした結果として受け止めることとしておこう。

考  察
 今これまでの6年間にわたりSR500をイジリ回してきたのは何だったんだ。それなりの結果は得たが、所詮アマチュアエンジニアのやったこと、多くはプライベートのことであり、僕のホームページへ訪れた方が参考にしていただいてそれぞれの結果を出されていることだろう、あるいは、百歩譲って「アンタもスキだな〜、でも自分はこんなコトしないよ」とされる場合もあるだろう。とだけしか考えられなかった。
 もう一点、僕のはSR500だ。多くの方々に支持され、連綿と生産続けられているSR400とは多くの点で異なる。大きくいうとノーマルの状態でもSR500とSR400とでは全くの別物である、と断言できるのである。
 そういった中で、ずっとこのページで「Sick;n SRを何とかする」と僕のやったことを出してきた。今回の対処は全く簡単なことで得られたいい結果だったが、一朝一夕ではここまで思いつかない、と自負する。当然発売元でセッティングを行ったケーヒンFCRをここへ持ってくればもっとすごい結果が得られると思う。
 しかし、僕はそういったことをするのではなく、現在装着されているものを最大限使用して何とかしたい、ということから始めたため、ここまで堂々巡りをやってしまったのかもしれない。その面での考え方からしてもう少し良くしたい、という気分を残した今回の実験結果になった。
 もし、旧ミクニのBST 34を装着したノーマルの吸排気系のSR500に乗っていらっしゃる方で実験を行って見られれば、おそらく僕のいわんとしていることはお分かりになるはずだ。それほどの好結果が得られる。負担金額もキャブレターの制御スプリングと#165のメインジェットの代金のみである。
  最後に、この程度でも改造は改造だ。どうか手を下される方御自身が責任を取られるようお願いして、この項を終了することとする。

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