SR500点火コイルの謎
 SRの点火プラグの謎として「その1」、「その2」をほんの4日間であったが、僕の考えと走行テストを織りまぜて検証をしてきた。
 結果は点火プラグの決定はできたが、もっと奥深い原因が別のところに存在したことが新たに発覚した。それは点火コイルであった。これまでオレブルがリリースしていたスーパーサンダーという点火コイルを使用していた。
 「よりよいもの」として、このスーパーサンダーという点火コイルを信じて使用していたが、実はそうではなかった、という結果になってしまった。
 「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」という例えから、アフターマーケットのパーツと、そのリリース先そのものへの不信に繋がってしまい、これまで僕のSR500で行ってきた吸排気系、点火系で積み上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れ去る思いがしてやりきれなかった。

ノーマルの点火コイルについて
 ストックの点火コイルの二次側はおよそ6kΩである。あまり関係ないが通常のプラグキャップの抵抗が10kΩだから、発電器からの電流は、ほぼ同一状況で点火プラグに導かれる。当然、点火コイルの抵抗値6kΩはハイテンション(プラグ)コードの抵抗分も考えてのことであろうか。メーカーの考え方が分かる部分でもある。
 ちなみに、TX650のポイント点火のコイルは8kΩであった。資料によると、SRと同じCDI点火方式になった最後のTX650では13kΩになる。コンタクトポイントの点火方式では、比較的ラフでも接点が断続することによって流された電流がコンデンサーで蓄積され放電、ということになると、パルス検出でそれを行う現代流CDI方式とは抵抗値が大きく異なるのだろう。
 スーパーサンダーはどういった抵抗値を示すのだろうか。僕としては、おそらくコアの容量からして、10kΩに近い値を示すのではないだろうか、と考えて測定してみたところ、何とノーマルと同じ6kΩではないか。

 待てよ、トライアンフにつけているダイナコイルを考えると、二次側は14kΩである。T-140V用では8kΩでいいはずだが、僕のT-140Vではボイヤーのトランジスタ点火に変更しているし、おまけに元の12Vコイルをシリーズ接続する指定だから、現実には6V作動の仕様となるため、12V用をそのまま使用すると、少しパフォーマンスが下がるのではないか、と考える。
 当然、メーカー責任として、ボイヤーのマニュアルでは元の12Vコイルをそのまま使ってもいい、と認めているけれど、マニュアルにもあるとおり、二個封入タイプが一番いいのではないか、ということになる。それに、通常なら一時側が5Ωのストリート用でいいのだが、ボイヤーの点火システムが高回転域までカバーしている点を考慮して、一時側3Ωのダイナコイルをブリティッシュ・ビートで決定されたのであろう。当然、2個封入でプラマイ共通だから同時発火である。360°クランクでは片方のシリンダーに無駄火を飛ばす方法だ。
 いかがであろうか。SRでは最初からのCDI方式、おまけにバッテリーレス(2000年モデルまで)も可能ともなれば、点火コイルはノーマルのとおりの抵抗値のままでいい。リプレースの高性能点火コイルとするなら、ノーマルのCDI点火方式を触ることなく、いかなる条件でも強い火を出せる、その火を燃焼室の広範囲に飛ばせるようにするものでなければならないはずだ。
 スーパーサンダーもそういった方向付けでの点火コイルと考えていたのだが... 。


左側がスーパーサンダー

スーパーサンダーに関して
 写真でもおわかりのとおり、僕のスーパーサンダーは、それを持っていらっしゃる方からすれば、試作モデルのように感じられるだろう。実はこの製品を入手するのに数カ月かかったのである。
 そのわけをオレブルに問い合わせたところ、製作上、天候がある程度晴天で一定した状態が2週間ほど無ければ、コイルの充填材の乾燥がうまく行かず、結果として完成品のばらつきが多くなり、製品として出せない状況になる、との返答。
 おそらく、オーダーは1ロット20個程度ではなかったのだろうか。したがって、このような製造過程で自然状態が左右するため、僕のスーパーサンダーは試作モデルのような風体をしているのである。その後、SRのツインプラグ化の改造を経て、スーパーサンダーはディスコンになり、その後二度と製造されることはなかったし、ツインプラグ化の改造もディスコンになってしまった。
 形状と大きさは写真のとおりである。形状からすると、古いコイルのようにコの字コアがコイル部分を包み込む形式である。コアボリウムが増えた分、コイルの卷き線部分の状況も線材の材質からはじまって相当に変更があるはずだ。それに、このコイル部分の充填材もオレブルが言う、気象条件で相当に変化するものが使われているのであろう。ケース表面のDENSOの文字からすると日本電装に製作依頼をしたのではないだろうか。

スーパーサンダーの性能は偽りか?

 2001年の12月前にSRの項「点火プラグとプラグコード... 」のところでも、どうしてスーパーサンダーがディスコンになったか、を記載しているし、今回、点火プラグのところでも記載したが、僕個人としては、スーパーサンダーは試作品の域を出ていない、と断言してもいい。その上に、説明書なども添付されて無かったことも含めて、オレブルの期待したものが完全には得られなかったのではなかったのか、という疑問が出てきた。
 これがいい、として購入した僕としては、当初、性能差は感じられなかったのだ。この時点でノーマルの点火コイルに戻して実験をしてみればよかった。もちろん、僕自体もWBのスーパーとラップを装着していたし、スーパーサンダーとスパトラ、そして意地のようにノーマルの吸入系を保持しようとしていた。これらをうまく作動させるためにあらゆる手だてを試行錯誤していた。報告は逐次行っているのでお分かりだろう。
 結局、何やかややっているのがバカらしくなり、ノーマルの状態に戻したのだが、たまたま、走行状態が妙におかしい感じになり、プラグはどんなんかな〜、と点検したときに、「プラグが死ぬ謎」と同じ状況になっていることから、今回の点火プラグの実験になった。
 今回の実験から点火系全般に及んで、最後に残ったアイテムがスーパーサンダーであり、それをノーマルの点火コイルに戻したところ、好結果が得られた。このことからスーパーサンダーの性能に疑いが出たのだ。
 この際、はっきり言ってスーパーサンダーの性能はノーマルの点火システム、吸排気系に対しては偽りである。理由は次による。
 多くのSRはモディファイされている。マフラーを交換し、キャブレターを交換し、外装を変更し... 。が、エンジンそのものをさわった場合でも、ACGはおろか、点火コイル、レクチファイアなどには手を付けないままであろう。よくてもプラグコードの交換のみとする状況が大半ではないだろうか。
 したがって、ノーマルの点火系でプラグコードを効率のいいものに交換してやれば、いい火が飛ぶのは事実だし、2000年までのSRではフラマグ点火に近い方式だ。レースマシンでもACGそのものを交換しないのだから、ノーマル状態の点火系は相当の完成度を有している、と考える。
 そこへノーマルと全く同じ容量のコイル部分に対してコア部分が増えたものを持ってくるとどうなるか。答えは「増」である。この場合は強い火花が大きく出る。
 ところが、このコア部分を増やしただけでは、うまくは行かない。強い火花は出るが、コイル内で起きる電流の断続がどうもうまくいかないような感じがする。
 したがって、電力を得るまでのACGの回転速度とピックアップの通過状況からすると、ノーマルのCDI方式では点火コイル内へ送られる電流の断続が、一般的な使用からセミレーシングに使用まで上手くバランスしているのである。
 おそらく、強力な火をとばすにはどうするかを優先に設計されたであろうスーパーサンダーでは、無接点ピックアップ方式のCDIで点火コイルへ供給される電流と、点火コイル内部の作動状況の関係、最終での点火プラグで火花の強さ、火花が出ている時間の設定などがノーマルの点火システムにフィットしていないことに気づいてディスコンに陥ったのであろう、と想像するのである。
 火花を飛ばした後のことは一切考えずに単にコアボリウムだけを増大した結果、スーパーサンダーで得られたものは強力な火のみである、と考える。
 僕の「点火プラグが死ぬ理由」でも紹介したが、電極中心部は良好に焼けているにもかかわらず、強力な火花を飛ばすのみに走った結果、プラグの電極にすすけたところが出るのはそのためであろう。燃焼室内のカーボンなどの影響ではないはずだ。
 SR固有の燃焼室の特徴があろうが、WBのスーパートラップのとき、スプリットファイア以外の点火プラグは良好な焼け方を示さなかった。電極の先端が白く、他はタン塩色にもならず、電極の奥はすすけたままの状態であった。
 堂々めぐりではないが、このことからノーマルの吸排気系に戻したのであった。ノーマルに戻し、キャブレターを一部改造してニアノーマルにしたときでも、少しばかりケッチンを食らう場面が多くなったし、ハイギアでのシャクリが若干ノッキング気味に思えるところが出てきたので「ノーマルなのにどうして?」と、プラグの確認をしたのが今回の実験の始まりであった。
 結果、ニアノーマルの吸排気システムであってもプラグの項で報告したように、スプリットファイア以外はスーパーサンダーにフィットしなかった。
 古い資料で申し訳ないが、オレブルのトランジスタ点火の試作モデルのインプレが専門雑誌the SRに記載されていた。それに合わせて(吸排気系をモディファイ)のスーパーサンダー使用なら好結果を得ていたかもしれない。
 その証拠はUOTANI製のトランジスタ点火システムに変更した場合、スーパーサンダーは好結果をもたらすことが知られているし、大半のトランジスタ点火方式にする場合は、リリース元がベストチョイスの点火コイルをセットしていることでもお分かりだろう。
 トライアンフをボイヤーのトランジスタ点火にし、ダイナコイルに変更したところ、(SUDCO)ミクニのキャブセッティングはパイロット系が普通の数値だが、メインジェットは#280ほどになる。ほとんどSR400がVMキャブを装着していた時代のセッティングに近づくのである。点火プラグが死ぬ謎で一部紹介したが、それほど、強い火が長い時間飛ぶことが理解できるのである。
 結局のところ、SRの点火システム全般をトランジスタにし、FCRでも装着したときに、スーパーサンダーの力が発揮できるのかもしれない。いずれSR500用にフィットする点火コイルとかプラグコードなどが入手できれば、その結果を出してみたい。もちろん、今のニアノーマルのの状態で。

おわりに
 今回のスーパーサンダーだけではない。別項で出しているU-MAGしかり、今は使っていないが、メガ・トラップしかり。オレブルがリリースしているもので、知らない間にディスコンになるものが多い、と一般に言われている。また、僕が発注した書籍、パーツにしても、数回違うものが送られてきたりしたこともある。
 結局オレブルとしては、構想を具現化するまではいいが、その後1年以上にわたって、その製品をあらゆる条件下で行っていないのではないだろうか。
 外装変更を主としたアセンブル第一のディーラーとか、パーツリリースメーカーなれば、そこそこのテストでいいと思う。しかし、ことオートバイの主要なパーツを自社が開発し、なおかつ、あらゆる使用者の状況に立ってみてのテストを行なわずに製品をリリースするようなショップは、僕としてはダメ、と言わざるを得ない。
 スパトラのインナーコアなど例にすると、オレブルでは脱落防止のため取り付けネジを1個増やすまでの変更をしているのだ。そういった姿勢があるのだから。

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