ボルトの頭

 「頭だよ、頭。よ〜っくご覧よ、頭違うだろう」、「そうですか?そうは見えないけどな〜、ま、ドライバー当てて、エッ!!、ヤバイ、ナメちまった」、「バ〜ッカ、だから言ったろうが、頭違う!、って」。
 まるで大工の会話のようだけど、今回は英国製バイクの整備での話。
 僕が最初にプラスのネジ山ボルト(ビス)に出会ったのはホンダのスポーツカブに乗り始めた頃だろうか。ドライバーも今のようにコンパチで車載工具の中に入っていた。もっともそれではとても緩めるなんてできなかったが。そのうち、模型の分野でも使われ始めて、美しい頭、ネジの扱いの簡便さ、力が掛けやすい、など、広く使われだした。
 カワサキのマッハ・スリー、いわゆるKA-1というすさまじいバイクのフレームに小さく「国際規格ISOネジ使用」とステッカーが貼られていたのを知る人も少なくなった。ISOの規格ボルト・ナットは頭とか表面に必ず「・」が刻印またはレリーフされている。「点」があればISOネジだ。この場合のゲージ、ピッチはほとんどメトリックサイズである。
 ところが、イギリスではいまだに様々な規格のネジが使われている。特に古いバイクなどは、ウィットウォースなるものが使われているのはご存じのとおりだろう。ほとんどはインチサイズでもアメリカインチになってきてはいるが、ネジの規格については、ここでは省く。それなりに役目柄どうしてもISOでは難しいところもあるのだから。
 さて、冒頭の会話の中で、ここ日本では意外と無視されているものが小さなボルトに隠されている。それが、ボルトの頭の種類だ。「エッ、プラスかマイナスでしょう」と言われる。確かにそうだが、そのまま鵜呑みにして、日本のドライバーを当てると最初の会話になってしまうのである。
 ここ日本では通常ネジの頭はプラス、マイナスで表現する。お手持ちのドライバーを見ていただければお分かりと思うが、プラスドライバーの刃先はなかなか先鋭で厚さも薄い。仮にサイズとして#2辺りのドライバーをISO規格のネジ山に入れてみよう。見事にフィットする。が、そのドライバーを(イギリスの)ポジドライブのネジ、大きさが1/4インチ程度のネジ山のボルトの頭に入れると、あーら不思議、うまくフィットしないのが確認できるはずだ。
 僕が知っている範囲では、日本のプラスドライバーはフィリップスヘッドに合わせてあるように感じる。ところがイギリスのプラスネジは完全な#で表される頭のドライバーを使用しないとうまくないのだ。決してまずいのではない。したがって、このネジ山にはこのドライバー、という大中小の#ドライバーが必要になる。感覚としては刃先の先鋭さが少なく、ブレードも厚いものが該当するだろう。
 が、イギリスの方々はなかなかユニークなことを施す。彼らにとっては別段ユニークなことではないのかもしれないが、写真のネジをとくとご覧あれ。
 これがトライアンフのクランクケースサイドカバーに使われているネジ(ポジドライブ)だ。何か感じませんか?っていうの。ほとんど同じの6mmのISOネジの頭と比較してみよう。どうだろうか、仮にドライバーが少しフィットしなかったりした場合など、頭をなめないようにヘッド部分に高さがあるだろう。厚みが多いのだ。
 今回ヘックスソケットのボルトに交換したとき、バイスにこれらのボルトの頭を橋渡ししてハンマーで軽く叩いて表面をなめらかにして保管してある。こういった何でもないところに注目する僕も僕だが、工具そのものがその国の工業製品のバロメーターだとすると、こういった点はもっと見習わなければならない。
 そこで、ネジ山がどうなっているのか、少しお知らせしよう。
 ちょっと図が小さいが、頭だけだと次のようになる。

 スタンダードは当然のようにマイナスネジだ。プラスネジも含めて、頭の断面形状によって呼び方が様々あるが、今回は割愛しよう。通常のドライバーを使用するネジの頭だけでもこれだけあるのだ。最近流行のトルクスネジも今度は#で大きさを表示しなければならない。Macだと、#8、#10が主に使われている。そういえば、僕のSE/30もポジドライブだったし、ハーベスのスピーカーもVOXのギターアンプにも同様にポジドライブ、というイギリスの頑固さ、のようなものを感じた。昔は日本の自転車にも分(ぶ)サイズのネジがいっぱい使われてたのに、多くはISOネジになってしまった。
 その上にゲージだのピッチだのいっていると、たかがネジの世界なのに大変な数になるのがお分かりだろう。今回はバイクのコラムに出したが、一度身の回りに使われているネジの種類を調べられてはいかがだろう。
 誰だ、「ダンナ、俺っちの骨にはチタンボルトが入ってまっせ」っていうのは。

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