Boyerトランジスタ点火の謎

 別冊モーターサイクリスト誌、いつの号か忘れた。T-140Vのエンジン整備が現トリニティースクール校長、富成氏によって報告された。最後の頃、ボイヤーのトランジスタ点火システムのことが出ていたので、その当時気にはしていた。1年後あたりに、お世話になっている千葉のストーリーから入手可能とのことで購入して僕のT-140Vに装着、今に至っている。
 もちろん、現在は東京のサイドバルブから入手するのが一番速い。ところが、無接点点火方式のボイヤーにも、様々なミスでパーになることが海外のトラブルシューティングで報告されている。
 特にブラックボックス(アンプ)が加熱して、ダメになるところが多い。専門用語で「パンクする」という。意外に知られていないことだが、通風が悪いところは一層パンクを助長するようだ。ま、これは現物を装着できるバイクがなければ説明のしようがないので割愛するとして、僕の場合は不都合なく使用できている。
 AMALからミクニのキャブに換装して何から何まで調子よくなったが、どうしてもクリアーできない問題が発覚した。それはプラグがくすぶることにある。キャブの調整をして、いい感じになってもくすぶる。こういったことから、電装、特に点火系ではないか、と考えたんだ。 
 何から何まで電気系統は点検した。トライアンフの配線は細いものでも18AWGぐらいの7芯で、日本の30芯のケーブルに対応する。非常に強固である。だから、経年変化が少ないのだろう。まとめの部分も緩やかにヨリがかけられ、テーピングはびくともしていない。それでも接点部分は徹底して磨いてスクアラン処理を行った。怪しいギボシクリップは国産に変更した。
 その上で、大げさなことではないのだが、12Vの点火コイルを直列につなぐボイヤーの方法では、360度クランクのツインシリンダーエンジンで、交互に爆発するエンジンに十分な火花が飛んでいるか、という問題である。
 つまり、コンタクトポイントがピックアップセンサーに変わり、コンデンサーとガバナーがブラックボックス(アンプ)化された。発電しているオルタネーター、整流のダイオードも12Vのままである。ということは、ピックアップが拾ったものは12Vの電源を使用して、アンプで増幅し、進角を調整する、ということなのだが、コイルへ行く電圧は12Vだが、コイルの作動はプラス・マイナスのシリーズ接続だから6Vで動いているのではないか、ということである。
 僕は当初、コイルに来るのは12Vだ、と確信していた。コイル内でどの程度増幅するのかはっきりしないが、コンタクトポイントと、コンデンサーの点火装置の当時は、NGKの8番だったんで、かなりの高電圧のものが想像された。国内では、6〜7番に落としていた。その後ルーカスリタのトランジスタ点火を採用したT-140Eでは6番のプラグが指定であった。エンジン形式など多くは同一だ。圧縮比が違う。でもどうして2番も下げたのか。これはセルフスターターシステムを用いたための措置ではなかったか、と考えた。しかし、どうもそれだけではない。
 それなら、トランジスタ点火にした僕のT-140Vでも6番を装着してもいいのではないか、で現在までそうやってきた。けれども、妙に調子が上がらない。何度となくSUDCO MIKUNIのキャブを開けてジェット類を交換した。組み合わせだけでも大変である。
 ふっと思い出したのは、SRで使用されているのは無接点の点火方式で、トランジスタで増幅する点火方式ではないことだ。したがって、吸入排気の関係からプラグの番手も6番なりでいける訳だ。アメリカでもヨーロッパでも通常は1番ほど上げて使用されている程度だ。
 では、SRの原型モデルXT-500の時はどうであったか。そう、6V電送でコンタクトポイントの点火方式。しかもプラグは5番が使用されていた。
 さあ困った。どうなるのかが全く分からない。そういった気分の中でスタティックに考えるとどうすればいいか。とりあえずはT-140VとT-140Eの違いを引っぱり出すことだ。パーツリストを見比べる。キャブレターはAMALのコンセントリックMK-Iからスタータージェットが付いたMK-IIになっている。これはミクニの場合とそう変化はない。電送はどうか、そこで発見したことは同じ順列のパーツナンバーではあっても点火コイルが140Eでは6Vになっているのが分かった。
 次いでボイヤーの英文マニュアルから引用すると、低圧縮比のエンジンでは12V点火コイルはいい結果をもたらし、高圧縮比のレーシングエンジンなどでは6Vコイルを直列にしたり、12V仕様の二個封入のデュアルコイルでも好結果を出す、と書いてあった。
 それでは、プラグはどうか。スプリットファイアーのホームページからNGKを主とした変換一覧表を見てみる。その前に、まず、140Vと140Eのプラグを確認する。(キャブは違うがメインジェットと口径は同じなので)前者はチャンピオンのN3で、NGKでは8番相当となる。チャンピオンは数が多くなるとNGKの逆となる。したがって、140EのN5は6番相当になる。
 フムフム、しかし、6番相当であってもそんなには変わらないはずだから、スプリットファイアーのSF-405Fなら6番相当だ。それは間違いない。しかし、妙におかしい。SR500に装着しているSF-426Cは6番から7番をクリアーするではないか。
 が、待てよ。現在NGKの抗芯入りのプラグキャップを使用している。ヤマハが盛んに使用する抵抗入りプラグの品番ならどうなるのだろうか。一覧表をじっくりと見ると、思わぬことが分かった。
 それは、抵抗入りとなると一番熱価が低いのだ。つまり、NGKのB6ESはスプリットファイアーのSF-405Fになる。ところが、抵抗入りのBR6ESはSF-40Dなんだ。そして、SF-40DはB5ES、B6ES、BR5ESをカバーする。当然、ヤマハの市販車には抵抗入りのプラグキャップは使われていない。すると、現在のSF405Fは抵抗入りのプラグキャップでは熱価が高いように感じるのだ。
 では、NGKの抵抗入りプラグキャップはどのくらいの抵抗値なのか。パッケージ表示から5KΩということが分かった。すると、抵抗入りのプラグキャップと抵抗入りのプラグでは、おそらく10KΩほどの抵抗になる。これはバカに出来ない。加えて、シート下に電送部分を持つT-140Vではプラグコードが片側数十センチもあるのだ。ウー、すると、高電圧を加えているハイテンションコードは変更するにしても、火花を飛ばすのが機械接点ではないから流れは悪くなるな、しかし、トランジスタ点火のブラックボックスに何かあってはならないので、この点火部分のノイズキャンセラーは必要だ。
 一応、ハイテンションコードはテイラーの製品に変更した。

 そこで次のような実験を試みた。
■すべてのスプリットファイアープラグで使用した結果は分かっている。要点は次のとおりだ。
○チャンピオンのプラグキャップでSF405Dはポイント点火の時調子がよかった。
○プラグキャップをそのままで、SF405Fにするとずいぶんとよくなった。
○プラグキャップをNGKの抵抗入りを使ってはSF405Fではくすぶる。

やることとしては次の方法である。
▼プラグキャップをNGKの抵抗入りにする。
▼プラグをNGKのB6ESで調子を見てみる。
以上である。

 僕の要求をある程度満たすのはノーマルキャップに抵抗入りプラグであった。しかし、万一の場合も考えられるので抵抗入りキャップとノーマルプラグもいいように思う。
 少なくとも、こういったことからプラグキャップは重要なんではないだろうか。ちょうどSRに装着しているスーパーサンダーのコイルにしても、使用注意として、コイルの抵抗値をノーマルのキャップに設定してあるので、他社のプラグキャップでは性能を発揮できない、と書かれている。
 僕はこの点は重視する必要があるんではないだろうか、と考えるのだ。そうそう、ハスコーが昔作ってた「ガンスパーク」も火花の増幅だったんだよな。でも、結果がいい場合と、そうでない場合があるので、生産中止になったはずだ。
 レーシングマシンの関係からもプラグそのものは抵抗入りではないはずだし、コンピューター装備しているから、キャップの方に対策を採っているのは最近の常識だ。
 
 以上はあくまで僕の推論でしかないが、ハイテンションコード一つをとっても、けっこう変化はあるはずだから、多くの点では間違っていないはずだ、と考えるが、いかがだろうか。

[もどる]

inserted by FC2 system