プラグの改造
 点火プラグに常時注目して、どういったものにするかってことは常々このページで申し上げてきている。最近の圧巻はスプリットファイアーであった。このスパークプラグは現実でいうとマッチの火、ライターではジッポーの点火状態によく似ている。
 じゃ、普通のNGKとかのプラグは性能が落ちるのだろうか、と言うとそうではない。スプリットファイアなどに比べて妙に火の出方が違うのである。それだけ?と言われるとそれだけ。でも、絶対感覚は異なる。そこで、トライアンフも結果としてはプラグの熱価自体からNGKのB(P)5ESに決定した。僕のトライアンフでは、ごく一般の使用はこれでいいようだ。
 最近になって何気なく立ち読みでオールドタイマー誌のレストア増刊号を見て、ケルン石塚氏による連載記事の集大成のうち、MINIのシリンダーヘッド自作は別として、バイク用のSUキャブを利用することに気をそそられ、スパークプラグのところへきて愕然としたんだ。「な、なんだ、これは?」。僕の考えをほぼ完璧に結果を出されている人がいらっしたんだ、非常にうれしくなって概要を記憶しておいて、早速実験を開始した。

 用意したものはスプリットファイアーのプラグ、それに古いデンソーのW20EPU、そして今装着しているNGKのBP5ESである。
 理論上からすれば、スプリットファイアープラグが全く同じことを行っている。それでは、デンソーのプラグで行った。行程は2本で30分。電極のカットでノーマルプラグよりも少々時間を食うだけだ。ニッパー、万力と中っくらいの平ヤスリがあればOKだ。
 加工したプラグを装着する。
 エンジンを始動しておかしな変化に気がついた。アイドリングが力強いのだ。早速走行、あ、ダメ。いつもの状況が出てきて、プラグの1本が死にかけているのを確認。あわてて引き返す。3000回転ぐらいで火がついて、2000ぐらいでは火がでなくなる、いつもの症状だ。けれども間違いなく変化は感じ取れた。
 スタンダードのスプリットファイアーで確認する。先ほどのデンソーと同じような感覚だ。ン、この改造はいいかもしれない。しかし、理論と実際の確認がどういったものだったのかを読んでなかったもので、どうしてこうなったのか?、という明確なことが分からなかった。自動車の雑誌ではあったが、この際だから購入することにした。
 後日、松山へ出かけたとき書店へ行くと「ない」。発売して5日あしか経っていないのに。松山では増刷しない限り入手は無理だろう。でも、宇和島では在庫がいっぱいあったが。こういったことから、宇和島では自動車だって入れ込みの強い人間は少ないのではないか、ということが分かったように感じた。
 読んでいくうちにおもしろいことに気づいた。スプリットファイアーの適合表でも分かるが、抵抗入りのプラグは、古い形式のエンジンにはふさわしくない、というものであった。僕も常々この考えは持っていた。そんなところの抵抗値なんて関係ない、と人からよく言われたが、プラグコード、プラグキャップの抵抗値も含めてスパークという、一瞬の状態だがクリティカルに結果として現れることに納得した。当然、大気中とは違い、空気とガソリンを高い圧縮をかけられた密室で行われることだ。大変なことを点火プラグが行っていることに注目しなければならない。たかが500円ほどの汎用パーツだが、重要な仕事をしている。しかも点火を支えるモノが主役でプラグ自体は消耗品というおもしろいことも見逃せない。
 したがって僕がやっているように、トランジスタ点火のアンプ部分にかかる、ある程度の電気的影響をくい止めるためには、NGKの抵抗入りプラグキャップを用いればいいわけだ。プラグの形状にしても、バルブ、ピストンに当たらない範囲で、できる限り燃焼室の中で火をとばすために突出型のタイプを用いればいい、ということも分かった。トライアンフに現在BP5ESを使用していることはOKなんだ。

 次に現在装着しているBP5ESをはずして、この電極の改造を施し装着した。市内をぐるっと一周。な、何だこれは?こんなってマジでアリ?。その変化にビックリこいてしまった。アイドリングの時に力強さが違う。「ドッドド」、と回る。でも、これが曲者でこのハーレー的な回り方はバランスが狂っている。これを「ドッドッドッド」と回るように、とりあえずキャブレターを確認。CO濃度ではなく、ディジタルの回転計を見ながらセットする。左が良くって、右が少々。完全に一致させることは僕の技術ではできないけど、これぐらいは仕方ない範囲だ。ピックアップも良くなった。
 いつものテストコースへぶち込む。エンジンの発熱が大きい。つまり燃焼が活性化している証拠だろう。コースを一周して、結果を頭の中で整理。再始動の時にバチッと少しミスファイアー。今度は本を読んでいるので大丈夫。電極のギャップをわずかにつめる。
 キックの時から感覚の変わったエンジンに思えだした。ついでにマフラー内もカーボンを落としていなかったんで、この際だから掃除をする。これが煙突掃除そのものだから本当はしたくないんだ。つまり、マフラーエンドまで貫通しているように思えるが、実はそうなっていないなど、すすだらけになることは否めない。
 マフラー再装着時にも注意して、バランスを取りながらステーの位置決めを行う。そしてテストコースへもう一度、すごいすごい、変化というよりはエンジンが快調なんだ。全体にエンジンの発熱がいつもより大きい。気にするほどでもないが、最初の頃のツーンとする臭いが帰ってきた。外国の女性が横を通るとパフュームの臭いがする、あれに似た臭いが戻ってきた。
 走りながら、次なるテストを考えていた。そう、スプリットファイアーでこれを行うのだ。
とりあえず、中古のSF-462Cがある。こいつに同様の処理を加える。
 が、今回はダメ。理由は定かでないのだが、おそらく最初から中心電極が先細りになっていること、もう一つの電極を先端でひろげてあること、このことにおいて、スタンダードの状態でも、瞬間火花が大きく膨らんで広範囲に飛ぶからではないだろうか。まさしく、これがスプリットファイアの利点である。したがって、この改造はスプリットファイアには適さない。逆にこの考え方を突き詰めると、指定のノーマルプラグの細かい設定に対してのスプリットファイアーのアバウトな適合だから、同じ熱価で同じリーチならNGKの2〜3の種類に一つで対応する。その逆(?)に完全フィットが難しい場合が多い、ということもあり得るわけである。


 しばらく期間をおいて再度プラグ自体を考えてみた。ケルン石塚氏の考え方は火花伝播にある。圧縮時点で燃焼室の中央で点火してやるとしての電極の陰になるところを回避するための方法であったような気がする。その理論と実際を見て、その確認を僕がバイクで行った、ということで得られた結果だ。
 しからば、プラグに何らかの加工が最初から施されているものがあるはずだ。ありました、ありました。まずNGKなら11シリーズの燻りを少なくするタイプ、グリーンプラグのように中心電極にV字カットを施したもの。VXのように電極をカットしたものなど。デンソーは有名な電極に溝をつけたUシリーズなど。数多くのものが出ている。熱価がフィットすれば確認をしてみたい。
 これらプラグは熱価が同じでも、中心電極の長さなど、微妙に異なっているのがお分かりだろう。しかし、プラチナ、イリジウムの電極プラグでこの改造を行うのはいかがか、と感じている。イリジウムプラグでは電極そのものが溶着されている点など、プラグ自体の製造上の本質に何かありそうなのである。こういったプラグは高価だし、やりたくない。おそらく、これを一本の細い貴金属で電極部分から製造することになると、とんでもない金額になるのはお分かりだろう。
 以上のように、今回の追試はなかなかの好結果を得た。たまたま調子の上がる一歩手前のトライアンフで行ったことだが、石塚氏も言ってらっしゃるように、フラットヘッドのピストンで、プラグホールが横についている自動車の場合はかなり有効な手段のように感じる。もちろん、SR500のエンジンで確認したが、この効果はトライアンフの場合と同じであった。
 ただし、あくまで、最良の火を飛ばすシステムがチープであっては、こういった改造で一気に性能がアップするかどうか疑問である。もう一つは技術的テクニックなり電気の流れ、どういった状況でエンジンが回るのかなどをある程度理解された方でないとダメだ。ほぼ同じ条件で、以前に走った時と違う、などを体が感じないと、こういった改造行為が果たして有益かどうか、ましてや、プラグコードをこれがいいから、とコイルも変更せずに交換したりする方にはお勧めしない。これらが分かって、たとえば、僕の述べたプラグの種類などが理解できる方はどうぞ確認のつもりでやってみてください、と言えるものである。


 が、しばらく走っていておかしいことに気がついた。それは雑誌のとおりにプラグを加工すると、一部電極の曲がりに不具合が生じるようなのである。不思議なことだが、一本目を加工するときに感じた。このことを先に申し上げれば良かったんだが、装着後のインパクトの方が大きかったし、電極のギャップの決定如何では気にすることもない、と感じていたから後になった。
 雑誌で加工後のプラグをご覧になると、電極の先端がプラグの中心電極の一部に被さっているのがお分かりだろう。紹介の加工方法の「電極をニッパーで2mmのところを切り取る」のとおりに行うと、こういった長さにならない。
 加工される方は以下の要領でお願いしたい。

1.プラグの電極をマイナスドライバーの先でヤスリがけができるぐらいに広げる。
2.ニッパーの刃を電極の端から2mm(まで行くか行かないか程度)弱のところに当て、強く握ってニッパーをひねって切り取る。
3.バイスに挟んで平ヤスリで印のところまで慎重に削る。(中心電極を削ってはいけない)
4.その後、電極のサイドを斜めに削る。
5.カッターナイフでバリを取る。
6.ギャップを1mm以下にセットする。
7.電極をわずかにオフセットする。
8.削りカスなどをエアーで完全に吹き飛ばす。

 雑誌をお持ちの方がいらっしたら、2.3.4.5.の解説に修正加筆をされるのがいいようだ。
 万一、雑誌どおりに行ってしまった方は電極が短くなりすぎているはずだから、ギャップは0.9〜0.8にせざるを得ない。特にバイクでは1mm以上にするとミスビートが起きる可能性が高い。
 以上、つたない結果報告になったが、なかなかおもしろい結果が得られるので、時間と暇のある方はぜひ、雑誌のとおり行っていただきたい。

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