点火システムについて

1.スタンダードプラグの力
 およそ9か月ぶりにSR500のプラグを交換した。今まではスプリットファイアーのSF-406Cであった。けっこう僕のSRにはフィットしていたようだが、プラグの性格上、抵抗入りのプラグではないために、NGKの抵抗入りプラグキャップに換えて数値をまかなって使用していた。もちろん、スーパーサンダー点火コイルに変更しているし、このコイルもノーマル仕様(東海電装製)の抵抗値にフィットさせてあるために、いわばつじつま合わせとしての抵抗値設定である。
 本来なら、点火コイルの抵抗値まで追求しなければならないが、今回は先にB8ESに交換したトライアンフT-140VのDYNAコイルとの関連もあり、少し説明が入るが点火コイルに関しては項を改めて僕なりの考察を行ってみたい。
 プラグはNGKの番手で熱価を表示することとする。

 T-140Vのキャブセッティングの結果、8番の最初の熱価に戻った。このことは、最初に点火システムをBOYERのトランジスタ方式に変更した時点から、考察を行っていたところだが、最近になって交換したDYNAコイルの影響も無視できない、と思われだした。
 BOYERのトランジスタ点火システムは、発電ボルテージ、発電力など変化なしの状態でスタンダードの場合、12V仕様の点火コイルを直列にして6Vコイルとして使用する方式に配線を変更する。
 つまり、普通なら、右のシリンダーに点火するときは12Vの電圧で点火コイルを作動させる。当然、左のシリンダーには火が飛ばない、という具合に各々の点火コイルを12Vで作動させているわけだ。それをBOYERの点火システムでは左右の点火コイルのポジとグランドを結んで電気を流して作動させるから、12Vの半分の6Vで作動させる、というものである。最後期のデボン・トラのT-140Eではルーカス・リタのトランジスタ点火で、コイルは6V仕様が二つ装備されている。
 BOYERの説明書(英語)には、「2個封入の点火コイルもいいパフォーマンスを示す」と出ていた。東京のブリティッシュビートさんに問い合わせると、DYNAコイルがいいパフォーマンスを出すとのこと、配線図とともに取り寄せて装着した。このコイルは同時爆発だ。この方法はカワサキの旧W1(-Sとか-SAのサフィックスの付かないタイプ)がコンタクトポイントで採用していた方法だ。
 T-140Vの場合、この方法で、当初の点火状況に戻った、と言えなくもないため、キャブセッティングが出来たと同様にこのことも無視できない、と考えている。基本的には、そのモデル毎のエンジンの性格も違って作られているはずだから、の結果かもしれない。
 この結果はT-140の項をご覧いただきたい。

 このことを念頭に置いて、SRに話を戻す。僕のSR500にはオレンジブルバードさんの開発したスーパーサンダーという名称の点火コイル(現在はディスコン)が装着されている。容量的にはノーマルのコイルの1.5倍程度の大きさだ。
 説明ではないが、点火コイルの抵抗値はノーマルのプラグキャップの抵抗値にフィットしてあるから、そのままコイルをリプレースするだけでいい、というものだ。そのため、スプリットファイアーでは抵抗値の関係と点火システムに与える影響からNGKのプラグキャップに交換していたまでのことだから、多くは無視してもいい。現実には数ヶ月はノーマルのプラグキャップで使用していたのだから。
 走行距離としてはスプリットファイアーで4000km程度走っていて、そろそろ交換、という状況だった。しかし、まだ使用できる、という感覚でもあった。ところが電極部分の焼け方がどうも尋常ではない。全体に白っぽいのだ。T-140Vの死にかけプラグの時とよく似ている状況になった。
 そこで、プラグキャップともどもノーマルに戻した。プラグはBPR6ESだ。交換して一瞬びっくりした。全てが快調なのである。プラグ1本でこういった変化するんだ、と感じた。スプリットファイアに交換したときはこんな感じにはならなかった。スプリットファイアの名誉にかけて申し上げるが、いかなる状況下でも点火できる、点火性能を長期間維持出来るプラグとしての優位性は無視できない。
 BPR6ESに変更してこういった結果になったが、僕のSRの使用状況なら、おそらく2000kmも走ると、どことなく性能が低下したように感じることになるはずだ。通常では3000km毎のプラグ交換、といわれている。そういえば、自動車でも定期点検で必ずプラグを交換するのはそのためではないか、とも感じられる。したがって、僕としてはオートバイでもフォーサイクルなら3000km毎のスタンダードプラグを交換する方が何かと都合がいいように感じるのである。
 
2.点火システムのアップについて
 さ、点火プラグはスタンダードも無視できないな、ということは報告した。次は点火システム全体を考えてみたい。多くの方が行うのがハイテンション(プラグ)コードの交換だろう。もう20年も前になるだろうか、アメリカ製のアクセルという黄色いシリコン被覆のハイテンションコードが日本で売り出され、瞬く間に浸透した。特に自動車の世界ではすさまじい勢いであった。
 最近になって、中心線に改良を加えたり、コード全体のアースを施したり、というこまめな改良によってコード自体を高性能化させた製品が浸透している。僕もこの結果は認めるところだが、スタンダード仕様のオートバイのハイテンションコードだけをいいものに変更して、劇的な変化を感じられる、とは思われない。もちろん反論はあるはずだか、点火自体はそんなに変化しないのではないだろうか。
 理由はこうだ。大気中での放電現象はコードによって「こんなに違うんですよ」と示すことは簡単だ。ましてや、ほとんどがむき出しのオートバイでは、ハイテンションコードがメートル単位でのたうち回ることもない。僕のT-140Vでも80cm程度だ。大気中で強い放電が出来ても、圧縮比10.0平均の小さい完全密閉の燃焼室で、高圧縮された混合気に大気中と同じ状況で放電(点火)出来るかどうか、はなはだ疑問なのである。レーシングエンジンではもっと圧縮比が高い燃焼室だから、結果は推して知るべしである。
 したがって、ある程度よりよい方向へ向ける目的で使用するなら、僕は大賛成である。特にノーマルの細いゴム系のハイテンションコードのリプレースとして、少し細い(6mm径)シリコン被覆コードは有効だ。何しろ気温、湿度などの影響を受けにくい、ノーマルコードより多くの電流を流せられるなどの点で、有効なのである。ただし、ノーマルのゴム系の芯線が細いコードに比べてだ。燃費など二次的効果要素は除いて、おそらく「この程度?」ということではないだろうか。

 ここまで来ればお気づきかもしれないが、ACGによる発電装置は多くのオートバイでは変更できない。発電コイルを巻き替え、内部配線材を最低でもOFCなどの無酸素銅にするなどは、一般アマチュアでは行わない。発電機でもその都度ロットによって、コイルの巻き線の材料が変わったりするが、発電量などの変化はない。おまけに、最近ではレギュレーター、レクチファイアなど、多くのものが一体化されている。僕のGX750の1型など、発電コイルの不良から大きな出費を伴って交換したが、交換パーツはナンバーさえ変更ないにもかかわらず、新たに入手したものは絶縁部分など、かなりの改良が施されていた。このバイクもポイント点火だが、レギュレーター、レクチファイアなどは完全に一体化されたもので、調整などはできない。
 このように発電部分には、ほとんど触ることが出来ない。そうなると、点火に際して、電圧・電流増幅してプラグに大量の電気を送るにはどうすればいいか。そう、もっともたるものは点火コイルである。これを規程の抵抗値でキャパシティーの大きいものに置き換えてやる必要がある。しかし、オートバイでは自動車のコイルのように大きいものを搭載するスペースなどないため、ある程度の大きさで、高性能のコイル、というものが必要になるわけだ。
 はなはだ残念なのは、点火プラグの抵抗値がアマチュアでは作動中に測定できない。もし容量の大きいものに交換しても、1次側の抵抗値をレギュレーター、レクチファイアを含めた発電側にフィットさせ、2次側の抵抗値をプラグキャップにフィットさせるなど、細かいところまで合わせなければならないのだから、リプレースできるものは少ないのである。

 点火システムに際しても、廃れてしまったコンタクトポイント方式を甘く見てはいけない。数年前のフラマグ(フライホイールマグネトー)点火方式のオートバイで、オートスパークアドバンサー(通称ガバナー)が不調でなかったら、地球上のいかなる地点でもエンジンに火入れが可能である。また、バッテリー点火でも、レギュレーターがマニュアルの電磁コイル方式なら、ポイント点火は最良のバッテリーさえあればOKである。この優位性は今でも変わらない。
 点火マークを発電機側で合わせ、ポイント面が最大になるようにフィットさせ、エンジン始動してストロボスコープで見ながら、ベースを動かす、という簡単な方式だが、ある程度の確実性と簡便さが最大の魅力であった。点火マーク位置が曖昧な場合でも、シリンダーヘッドのプラグホールからドライバー突っ込んで、一番上がったところに合わせて調整すれば、何とかピストンの上死点を出せたものだ。ポイント面のヤスリがけなど、なかなか楽しい思い出がある。もしかして、今ではこの調整すらできないオートバイ専門店のメカニックも多いかもしれない。
 このコンタクトポイント方式では、高性能コンデンサーを用いれば、なかなかの変化をもたらした。特にボンファイアと呼ばれる商品(現在でも発売していると聞く)はコンタクトポイント点火の欠点を補うに十分なものであった。
 初期のXT500がポイント点火であった点は、軽量化できる面で有効だったし、右クランクケースカバーが複雑化して重くなるのを嫌って、マグネシウム製にするなどの軽量化にも一役かっていたのも事実だ。こういったところがXT500の知られざる点でもある。もし、今でも売られていれば、12Vのフラマグ方式の軽量点火方式が原付のスクーターに使用されているし、バッテリーもメンテナンスフリーのシール型にいなっているから、もし、XT500、TT500が進化していれば、かなりスパルタンなオフローダーになっていたことであろう、と確信する。
 が、余談になるも、排気ガス規制に対処できなかったし、もっとスリムな形、そうロードゴーイングオフローダーの世界が先に来たから消え去ったのであろう。その証拠に、セローを見るまでもなく、現在のフォーサイクルオフローダーは以前のモトクロッサーよりもすごいのである。

 バッテリー点火なら、そこへ行くコードも品質を変更することが大切だ。T-140Vではいまだにメインハーネスは変更していない。接触面以外は銅が酸化しているが、非常に丈夫で、フレキシブル性も失われていない。確認してみると、どうやら18AWGのグレードで芯線は太く本数が少ないタイプだ。国内の50〜30芯のコードに合致する。電動のRCカーでもモーターへの配線材も以前はプラグコード同様に様々なものが出た。SRの場合なら、バッテリー部分のラインが太いタイプを使用している点でもお分かりになるはずだ。被覆が硬く急激に折り曲げられたりしているところなどがあると、その部分でのロスは想像以上なのである。

 パフォーマンスの面からすると、僕はトランジスタ点火が有効である、と感じている。火花を飛ばす時間が長い。無接点でメンテナンスフリー。特にいいのは火花を飛ばす時間が長い点にある。しかし、システム全体を支配するブラックボックスの良否が非常に重要で、この点だけが内部パーツの関連からイカレルときが希にある。もう一点は火花が長く飛ぶ関係から、低回転から高回転までの許容範囲を十分に確認しての点火状態にセットしなければならない。この点はBOYERがその方法で行っている。一部のマニアに注目されているが、ウオタニ製のSR用トランジスタ点火などでは、つまみによって微調整出来るようになっている。

 ざっと出しても細々したものから、大きいものまで点火システムそのものも多くの要因がたくさん存在する。僕はこういったものの中から、この点火システム、この点火コイル、このプラグコード、と少なくとも大きいセクション3点のトータルで決定しないとならないのではないか、と考えている。
 このことに付随して、キャブレターの状況がどうか、動力性能とそれを司るエンジンの状態がどうかなど、が加わることになるのだが、本末転倒とはいえ、点火システムが良くったって、吸入排気を含めたエンジンそのものがダメでは元も子もない。この逆もしかりだ。
 通常は「速いオートバイを」といって、エンジンの排気量を上げ、キャブレター、マフラーの吸排気系を変更し、ギア比を換え、サスペンション、タイヤで走行性能を上げたりする。しかし、「エンジンを回す根本の点火システムをよりよいものに向けなければならない」というオレンジブルバードのボス藤井氏がいうものが、今後大きくクローズアップされるようになるのではないだろうか。もちろん、SRに限らず、多くのモータリゼーションの分野で。

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