YAMAHA Sports XS-1

プロローグ
 1969年秋、いきなり、そう、いきなり僕の眼前にホンダCB-750のブルーグリーンの大きい車体が現れた。おそらく種別はK-1だろう。ごついサイドカバーだが、スロットルが2本だったから。少なくともこのバイクを僕は欲しくなかった。すでに高校も3年生の時期を迎えていたし、もっと気分良く乗れるバイク、ビッグバイクでも扱いが楽なバイクの方がいいように感じていたからだ。みんなホンダのCB-750に追いつき追い越せの時代だった。しばらく後にスズキはツーサイクル水冷3気筒のGT-750を出した。カワサキはSSの空冷3気筒MACH-IVを持ってきた。どのバイクにも一度は乗ったことがある。人のものを借用するのだが、オーナーもOKを出すというおおらかな時代だった。免許も125での一発合格で取得できた。
 しばしの時を経ても、ヤマハからはXS-1(650cc)というバイクのみがビッグバイクであった。その下は排気量からするとRT-360が一番大きい。別にヤマハがどうのこうのというものではなかった。CB-750は別として、対抗するバイクではないにしても、OHCのツインシリンダーではないものを期待していたのだ。CB-750が出るまではカワサキW-1の650が一番大きかった時代だから、どういったニューモデルをヤマハがリリースしてくるか、が重要な問題だったんだ。
 「どうのこうのということもなく」、と「重要な問題」は相反することだが、僕の立場からは致し方ない。そもそも、カワサキW-1の前身、メグロK-1は内田自転車商会さんがリリースしていた。当時、内田さんが新町で営業されていた頃、小学生前の僕は、内田さんとこの隣の宇和島温泉(銭湯)へ母と行っていたんで、向かいの整備場に入ってくるメグロのバイクを見ながら、いつかメグロに乗るんだ、と意気込んでいたわけだ。それから15年後にメグロのS-3に乗ることになるのだが、今でもメグロというエンジンに記載された赤い文字とマークは誇らしく思う。
 そういった意味から、メグロからカワサキという感覚とは別に、そこにメグロの代理店があってメグロを目にしていたからの感覚の方が強い。すなわち、内田さんとこがヤマハの代理店になってしまったから、ヤマハのバイク、という方向付けを無意識にやっていたのかもしれない。
 さて、そのヤマハの大きいバイクXS-1はどういったものか、さっぱり現物が入らない。ほとんどはカワサキのW-1に向いてしまう。ホンダは2輪専門のディーラーが無いため、僕の考えでは購入できない、と決めていた。スズキはすでに代理店が姿を消していて、どうにもならない。これは今でも続いている。現物を目にすることが出来ない。つまり売れない、というか売りづらい。何しろトヨタのDOHCエンジンをヤマハが作っているのは知っていたが、バイクとしてはツーサイクル専門メーカーが最初にリリースしたフォーサイクルエンジンを搭載する、しかも大型バイクだ。パイオニアとしてもリスクは大きいし、信じ切って購入という人も少ないのは誰の目にも明らかだ。昌和をヤマハが吸収していたことは後で知ったが、この点でもかつてのホスク、クルーザーなどのフォーサイクルの技術はすでにヤマハの手中にあったわけだ。
 このXS-1を最初に目にして、エキゾーストノートを聞いたのはモーターサイクリスト誌からであった。記事はバイロンブラック氏のインプレッションだった。読んだ後はうれしかった。その頃いつかはトライアンフって考え方持ってたから、必然的にこのXS-1は欲しいバイクになってしまう。エキゾーストノートは号数は違うが同誌の付録ソノシートから聞き及んだ。
 XS-1の欠点をさらけ出してしまったのもバイク雑誌からである。ひどい振動、ねじれるフレームなど、付きまとう問題点は数限りない。最初にリリースしたものをいい意味でも悪い意味でも一身に受けるヤマハの宿命だろう。しばらくしてエンジンが変更になる。右クランクケースカバーのオイルフィルターの取り付けネジが上下から左右になるので、確認は容易だ。ほとんど同じ時期にフロントフォークがスプリング内蔵のインナーチューブタイプに変更され、タンクに白い細い方のラインがもう一本追加される。タンクバッジもベースが黒になる。が、根本の欠点は修正しようがない。SR400/500の時と全く同じであった。

経験から

 突如、ヤマハはとんでもないことを行ってきた。よく効くフォークレッグ固定型フロントディスクブレーキ、デ・コンプ採用のセルモーター装備のXS650Eモデルの誕生である。タンクディザインはグロテスクになったが、このモデルが最終のXS650スペシャルまでのベースになるわけである。僕はこのXS650Eから乗ってきた。途中、対米輸出仕様のXS-2にすべて変更して楽しんでいたが、今乗っているトライアンフT140-Vと比べても遜色ない。その後のTX-650よりいいバイク、と今でも信じているし、TXに乗り換える前に売るんではなかった、と後悔したバイクでもある。TX-650とXS650Eを並べて(バイクと)一晩語り明かした。すでに、僕の心はトライアンフが占めていた。それから2年後、トライアンフが来て、現在まで二度とXS(TX)650に乗ることはなかった。
 TX750で大失敗しGX750で起死回生をはかり、現在のXJR-1300につながることになる。そのGX750を売却時の念書どおり買い戻しができたり、ずいぶんとヤマハのフォーサイクルには思い出が多い。TX650を売ったときは幸いにも、あのとき売らなければ、という感覚は尾を引かなかった。それはトライアンフというモノが現実にあったからだろう。

実際には

 プロローグが長くなったが、XS650を現在のレベルから見つめると、華奢でヤンチャクレだ。もし購入したら、とにかくフィットするパーツなどは最新のTX650のものを引っ張り出そう。TXの重いフレームはエンジン搭載方法がわずかに前傾させてあるなど、全くの別物なのでどうすることも出来ない。XSのタンクレールの下に補強を入れることと、メインチューブとシートレールにメンバーを加えることなどが補強方法として一般的な方法だ。もちろんタンクは一部分切り取りが必要になるが。これで、ずいぶんとヨーイングが少なくなる。フロントフォークはおそらくSRのものがフィットするはずだ。リアショックはリプレースを探す。フロントしっかり、リアで逃がす方法を採ればいい。当然、タイヤもへばりつくものは避ける。
 点火システムはボイヤーのトランジスタに変更しよう。同時にカムチェーンも丈夫なものに交換すること。コンタクトポイントの取り付け位置がシリンダーヘッドの一番上にあるから熱変化でタイミングが狂うのは一目瞭然のこと。トランジスタの点火にすると、ポイントの部分はピックアップセンサーになって、今の技術はタイミングの正確さを可能にする。後は電気の流れだけだから、トランジスタ化は必須だ。コイルもTXのものに交換しよう。振動でどうかなりそうな取り付け部分でのナットは緩み止め付きのものに交換するなど、考えられる点はことのごとく手を入れよう。
 とにかく完調なエンジンだったら、後は何とか今流のやり方が出来る。決して今風にしてはならない。ノーマルのフォルムを生かしつつ、今を走るバイクに仕上げることだ。
 XS650Eのフロントディスクブレーキは現在のブレーキシステムにする方がいい。古いシステムのリペアはパーツがないものが多いし、独特の取り付け方法のフロントディスクだからだ。
 オイルは現在のレベルだといとも簡単にチョイスできる。このオイルが当時あったなら、と悔やむだろう。この点が当時の潤滑用品では満足できるものが少なかった。最終段階でカストロールのGTX 20W50を使用するのだが、それまでは冬季はシングル30番、夏期は40番が常識だった。何しろハーレーのFLHに使用する50シングルが欲しかった。それほどあっという間にサラサラになってしまうのだ。粘度は感じられるが、実際スピンドル油のごときになってしまうのが常であった。XS-1(B)、XS650は3リッターのオイルを使用したが、セルモーターを装備したXS650Eは2.5リットルに減った。心配したが、このオイル量差でエンジンがおかしくなった、とは聞かなかった。
 もう一つはタイヤだ。これにもずいぶんと悩まされた。フロントが1.85、リアが2.15のリム幅で、フロントがダンロップのF7、リアがK70であった。フロントは3.50であったが、後にリアがK87MK-IIになって、フロントを3.25のF6にしたが、SRのように大きな変化があるとは感じなかった。今ならメトリックサイズでいいものがある。当時今のタイヤがあれば、オイル関係以上に評価も確実に変わっていたはずだ。

エピローグ

 カワサキからW650というバイクがリリースされた。新生トライアンフからボンネヴィルがリリースされた。しかし、何度か噂はあったが、XS650はリリースされない。それより、SRは500ccが消えた。400も大きくモデルチェンジする。はなはだ言いづらいことだが、僕の感覚からすれば、XS650というバイクはヤマハのお荷物だったのではないだろうか。そういったものを今の時代に出していいものかどうか。昔のままでは出せないし、今流にモディファイするのなら新しいツインとしての方がいい。
 SRはどうなんだ?といわれるだろうが、SRの感覚でXS650に一度乗ってみられるといい。おそらく乗りたくない、と感じる方が多いはずだ、と僕は想像する。それほど今でも硬派のバイクなのだ。
 なら、どうして僕がここにXS650のことを記載したのか。それは、31年も前のバイクであっても、今の技術を注入すれば何とか行けるものになる。とうことを知っていただきたかったからである。欠品など無ければ、バイクはそうそう壊れるものではない。僕のトライアンフもそうやって今に至っている。どうか、動いている20年も前の古いバイクをもう少し何とかしたい、という方は、ぜひ基本を押さえた方法で今の技術を注入してほしい。そして、ノーマルの姿を生かしたモディファイを行っていただきたい、と考える。

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