フロントフォーク交換 (その1・ホークレッグの入れ替え)
はじめに
 あの、人間というものは好きこそものの上手なれ!と聞こえがいい表現はあるが、その裏側にあるものは、突き詰めると周りが見えなくなってしまうことである。
 僕も昨年(2002年)末からその傾向になりつつあった。特にこのT-140Vは燃料タンクのリペイントが一応出来上がったのはいいが、以前より気にはしていたフロント周り、中でもフロントフォークに拘わるディスクブレーキローターの引きずりが非常に顕著になってきた。もちろん、現在装備しているデイトナの赤パッド自体が少し厚いという面はあるが、キャリパー自体がどうも内側に寄っているようなのだ。
 このことが起こり始めたのは3年前の初冬であった。東京の専門ショップ、サイドバルブからインナーチューブを取り寄せた。オリジナルと比べても仕上げはそんなに変わっている様子はなかったが、いざ装着する段になって、とんでもないことが起こった。左のフォークレッグとして選んだものが、インナーチューブに設けられている段付きになった部分から残りの部分が、ステムの三つ又に入らないのである。作業を行っていた旧内田自転車商会で悪戦苦闘していたとき、ヤマハパーツを受け取りに来ていた永井モータースのK君に手伝ってもらって、彼の人力と、リューターでのステムの内径加工で無理矢理入れてもらった。
 もち、サイドバルブにはモンクを言ったが、そうですか、と、つれない返事だけだ。こっちも今は装着できているのだから強くは言えない、痛し痒しであった。
 その後、何とか微調整ができないものかと、トップブリッジの取り付け部分のロックナットをはずし、隙間を広げていると、その部分がパーンと割れた。鋳鉄という材質上、この辺では溶接を行ってくれるショップがない。今さらサイドバルブには発注しづらい。それに三つ又・トップブリッジともに内側にスロットがあって、国産のように外側クランプではないため、再び取り付け面を加工するのは溶接同様に大変な作業になるからだ。
 この時点でSRのフロントフォークの移植を奨められていたコヴェントリーの清水さんに電話。探してみるという返事から1か月後、すばらしい純正品をニュージーランドより入手していただいた。製品裏のレリーフナンバーから純正品と分かるし、割ったオリジナルとは装着感がまるで違う。このことに気をよくして、フロントフォーク関係はそのままにしておいた。
 一昨年夏、清水さんから先に装着したフォークレッグがどうもおかしい、と通知したところ、渡りに船とばかり、T-140Dのフロント周りをSR400/500のものに交換したものがあるので三つ又とトップブリッジ付きのフルセットで送るとおっしゃる。金がないが... 、と言えば、ある時でいいよ、とのこと。有無を言わさず送られてきた(爆)。
 電話では少しばかり高い気がするけど... 、と思っていたが、送られてきたものを見た瞬間、納得した。僕のオリジナルのT-140Vのものより綺麗だし、材質が少し変わっているようにも見受けられた。
 すぐさま取り替えればいいものを、ま、いいじゃん、と、残念ながら送られたまま、屋上の物置に入れたままであった。それから、ディスクパッドを交換したときに、冒頭申し上げた引きずりの一件になるわけだ。

ちょっと対話
 僕はどちらかというと、作動するフロントフォークのインナーチューブの位置は、その位置が長年のベストポジションとする考えの浅川さんの意見に賛成だから、交換したインナーチューブのどの辺がいいポジションなのか、そして、ディスク(ローター)のひきずりを最小限にしたい、ということで微調整しようとするのだが、とにかく左は一切動かない。
 その上に、こんな状態になったら思い切ってSRのフロント周りに交換しちゃえ!、と短絡的なことを考えていたわけだ。

 今年(2003年)に入って宇和のT君にフロント周りをSRのものに変更するので、三つ又のステムシャフトを加工するところがないか?と聞くと... 、
「オ〜、そういえば宇和島の祝森(いわいのもり)に以前大きな旋盤を置いたところがあったが、今は店をつぶしている」と。
そして、「ワンセットあるんならそれに交換すればいいじゃん」
という。
<それが動かんけん、この際丸ッポ交換するわけよ。>
「バ〜ッカ、上からたたき出したらええんよ。」

<それはメーターブラケットの受けの部分をキャップが兼ねているから叩くことできんの。>
「プラハン(プラスチックハンマー)があるやないか」と。
<そんな近代的なものは僕の青空工房にはない。>
「メカニックの常識やけん、この際買え」のお達し。
<ムムムム... 、そうだ、金槌の柄ならある、あれって樫の木やろ?>
「そうそう、さし当たって、そいつをあてがってハンマーで叩けば行けるやろ」
と。
こういったやりとりの後で、そうかな〜、という気分のまま1月18日を迎えた。それでも、この日の内にやらないと、翌日の天気は確実に雨を見る。昼食の後、早速とりかかる。

交換の実際
 とにかくはずしてみよう。人間なんていい加減なものだ。ブレーキの引きずりのことは忘れ去っている。
 ホイルをはずしトップブリッジ、三つ又のフォークレッグ取り付けボルトを緩める。かじり防止のためにモリブデングリスを塗布するため、ヘキサゴンボルトは取り去っておくこととした。
 前回、右は入れるとき確かにスムースだった。左が入らなかったことを確認したとき、右側のを左に入れるとスっと入ったのだから、インナーチューブに問題があったのは間違いはなかった。
 ところが、今回は右も抜けない。ばかな... 。練習の意味を込め、ハンマーの柄を介してハンマーで少し叩いてみることとする。ものの2発。スルっと抜けてきた。三つ又部分にうっすらと錆を発見。これは致し方ない。
 左は相当なものが必要であった。メーターサポートを兼ねたキャップの奥までハンマーの柄が割れて入り込む。冷や汗がダラダラ出てくる。おかしい、と思った瞬間、スっとキャップの位置が下がった。後はするりと抜ける。3年前の悪夢が思い出された。

 ここで小休止。缶コーヒーが旨い。
 取り外したフォークレッグを見ると、国産の考え方ならクレームものだ、と感じてしまう。あえては言わなかったが、ショップの方でスムースに入るかどうかを確認してほしいところだな。インナーチューブの左右は共通だし、トライアンフのは鋳鉄製でスペーサーのスリットが内側に切られているため、外側がオープンになった大半の国産とは違って、三つ又の穴をホーニングして広がりすぎると元に戻らないのだから。

 今度は左から装着する。この前と全く同じ状況だ。入らない位置から再度抜き取る。三つ又はそんなに狂ってはいない。内側もスムースだ。何だろうな... ?。
 あっ!、WD40だ。こいつの助けを借りれば大丈夫だろう。嫌というほどスプレーする。わずかに良くなるが、今度は入れ込もうとする両手が滑る。
 そうだ、そうだ、インナーチューブにもスプレーすればいい。きつくなる位置主にスプレーして垂れないように一気に押し入れ(上げ)る。わずかにトップブリッジの前まで来た。そこから今度は回転させながら抜く。
 もう一度スプレーして、回転させながら一気に入れる。ありゃりゃ、今度はトップブリッジを大きく越えてしまった。まるでバルブの擦り合わせのようだ。これを3〜4回やっただろうか。ひとまず、少し突き出しすぎたかな、という位置にしておく。
 右はいとも簡単に一発でOKであった。
 後はトップブリッジを水平になるよう、左右をちょいと叩く。インナーチューブ最上端の面取りがしてある部分がトップブリッジよりやや上になるようにして、外しておいた取り付けボルトにモリブデングリスを塗布して締めた。ステアリングのベアリングはニードルテーパーだから、ほとんどガタはない。今回は左右の取り付けが均等だから、フラフラしていたハンドリングが粘っこいものに若干変化した。ステムのトップキャップは締め付けていないためインナーチューブが均等に取り付いたのだろう。



ディスクブレーキ関係

 どうして、イギリスの人はフロントホイールのハブにスピンドルを取り付けたままの設計にしてしまったのだろうか。最初の車検の後、この問題に対し、相当に悩んだ。それほど微調整ができないんだ。ハブのセンターとフロントフォークの取り付け部分のカラーもない。おまけにキャリパーの位置は固定だし、引きずりの微調整はハブのベアリング押さえだけでしか出来ない。
 ベアリングベースを緩め、スピンドルのセンターアジャスターを締め込むことは、装着されているベアリングメーカーによってはケージの厚さから修正不能になる。右側は固定・左側のみでの修正範囲だ。
 そういったことを忘れずにフロントホイールを戻す。そして軽くホイールを回転させると、レレっ、スムースじゃん。右のスピンドルエンドを取り付けホルダーとほぼ面一にすれば、上手く行く。
 しかし、キャリパーの内側寄りにディスクプレートが来るレイアウトは変えようがない。このためにSRのフロント周りにすべからく交換し、ブレーキ関係をヤマンボにする考えが成り立つのだ。
 とりあえず、本日の作業を終了する。
 右人差し指の切り傷が一カ所、右指の爪の割れ1カ所。缶コーヒー1本120円。作業時間3時間。これが本日の作業リザルトだ。

 翌日(1月19日)の朝は思わぬところで、僕自身に昨日の後遺症が出た。右肩が上がらない。左の肩胛骨付近が痛い。雨で傘を開くときに二の腕に痛みが走る... 。よくよく思い出してみると、左のフロントフォークを力を込めて回しながら入れたから、手首を主としたロールアップ(カール)のトレーニングやってしまった。そして立ったりしゃがんだりのスクワット。
 おい!、トライアンフと接するときは介護福祉士か。それにトライアンフをいじるときは卍崩しか、などとバカなことを考える。日頃の体力不足を思わぬ形で感じた次第。
 雨上がり、カバー下のリアキャリパー部分が目に入った。ディスクパッドとディスクプレートの間隙がフロントに比べて広いよな。最初は内側の間隙が少なかったから... 。そうか、この部分の修正は僕のホームページで紹介している。T-140Eではこの部分がかなり改善されているのはご承知のとおりだし、両モデルとも、フロントキャリパーはリアのキャリパーサポートに比べて断然堅固なものに固定されている。ただし、フロントのディスクローターを左右へ移動するには、かなりの制限を受ける。
 それゆえ、SRのフロント周りを移植するんだ、という堂々巡りが始まるのだが、ここで一つの閃きが起こった。僕自身もまだ捨てたものではない。そうか、ディスクローターを外に出せばいいんだ。
 それにはどういった方法を採るのか? 

 以下、次号に。

[もどる]
 



inserted by FC2 system