T-140Vのキャブを変更する(1)


プロローグ
 AMALのキャブが張り付いた。もう僕はあわてない。とにかく、動かすことに集中する。理由は分かっているのだから。WD40をスロットルケーブルの穴から吹き付ける。数分待ってジワリとスロットルを手前にひねる。少しずつ開度が大きくなる。で、動き出して妙な引っかかりがないか確認する。エンジンを回していつもの調子ならOKである。
 ところが最近ではそれが効かなくなった。各ジェットの穴は完璧に通過している。どれもが一応のレベルに達してはいるが。細かいものがひっかかっているようでならない。そのためにシリンダヘッドからキャブレターをはずす必要に迫られる。簡単なようだが、T-140Vは結構込み入った作業をすることになるのである。それでも今は調整ポイントの位置を覚えているのでラクチンだが最初は非常に難しかった。
 エンジンの腰上のリビルト後、逆に不調になった原因は、キャブレターが本来の調子を取り戻したことによるものであった。倉敷の帰りもそれだった。あのときNGK6番のプラグに変更していれば方肺で北条から走ることにはならなかったのに、と悔やんだが、そのときからキャブレターを含めた点火系、排気系の勉強を開始した。

 まず手を付けたのは点火系であった。ボイヤーのトランジスタ点火システムに変更。激変した。アンプの消費する電流が小さいのも幸いした。キャブレターは千葉のストーリーさんの指示で#25のパイロットジェットを追加。そうするまではアイドリングから2500回転あたりまで、生ガスがドバドバ送り込まれていたか、と思うとゾッとする。それでもダメであった。排気の抜けがよすぎるのである。これはSRでおよそ理解できたが、マフラー容量がクリティカルに働く、ということだ。幸いにもストーリーから容量の大きいマフラーを入手して、プラグを8番から6番に変更して今の性能を維持していた。
 そこへ、前述のようにキャブが張り付く。亜鉛のボディと亜鉛のピストンならベアリング効果は望めない。以前はこれに鉄のコーティングをして、ボディをスクィーズするところもあったが、現在では望めない。ピストンのテフロンコーティングも一品では新品からでないと効果のほどは分からない。聞くところによるとスムースボア用のAMALもあるらしいのだが、入手は難しい。
 考えられるのは国産のキャブレターを取り付けることだ。運良く花園村でスズキガンマのキャブを装着したT-120Rを見かけた。恐ろしくピックアップがいい。マジにAMALのキャブよりいい状態だ。問題はフランジをどうするか、であった。アルミで製作してくれるところなど近所じゃどこにもない。自作となると、どうしてもこの点がネックになる。

それでは
 ガンマのキャブを見てからおよそ1年、ようやくミクニの32mmのT-140V用のキャブレターキットを入手することができた。キャブといっても普通のVMタイプである。単純にリプレースキャブとして考えてもいい、が、どうしてアメリカなのだろう。キットの外箱にカリフォルニア州規則とレース以外で使うなの記載がある。そう、アメリカではこういったT-140Vのようなモデルは現在でもレースで使用されているのだ。どうやれば性能を上げられるか。こういうことに邁進することができるのは、やはりアメリカがすごい、と感じざるを得ない。
 思いあやまったかもしれない。僕がトライアンフのキャブレターをAMALからミクニに換装しようとした心の一部分は、走らなければバイクではない、そういった気分からであった。また、わけも分からずにこれしかない、と考えたのも同じくであった。一つの理由はミクニが何となく好きだったからである。
 ではAMALではなく、ミクニを選んだのはどういった理由からだろうか。話は2年前に遡る。英車のつどいで小豆島に行ったときだ。僕は今回のキャブレターに関わる一連の不調でSRで参加した。いつも一緒になる岡山のT-140Vさんは結構快調な走りを見せていた。
 昨年、高知で開催されたとき、到着した日は雨であった。翌日は快晴であったが、岡山のT-140Vさんはどうにもプラグが焼けすぎる、と言っていた。なんと新しいAMALが装着されていた。点火はボイヤーのトランジスタに変更されている。結局8番プラグがないので7番を装着してだましだまし帰った、ということであった。
 昨年、花園村でのできごとも同様であった。先のガンマのキャブではないが、別体型のきれいなトライアンフで来ていた人がいた。そういえば彼は現在のサンダーバードに乗っていたのだが聞いてみるとこれに換えたたいう。金額は200万ぐらいだったらしい。ところが、これが何とも調子悪い。これにも新しいAMALが装着してあった。大阪のOさんに調整してもらっていたが、ようやくエンジンが回るところまでこぎつけた。帰れたかどうか問題である。
 僕のAMALは本当に23年も前の製品か、と思うばかりのものである。そう、外観はくたびれているけど、内部は完調というものだ。

 それでは、現在のAMALと過去のAMALはどこが違うのだろうか。注意深く見てみると、どうもフロートバルブ辺りのようだ。本来のAMALはどこといってとりようのない亜鉛のボディーと亜鉛のピストンでけっこうラフに作ってある。内部パーツは特殊な合成樹脂である。フロートバルブそのものも同様に合成樹脂だ。そのために停車時は常にペトタップを閉じておかないとガソリンがオーバーフローする可能性が大きい。そういったキャブだったのに、MK-IIが出て以来、どうもキャブレターそのものを近代化しすぎてきたような経緯が感じられるのである。
 したがって、昔のキャブレターのつもりでやると、僕のキャブと同様の兆候を示すようになるのは明白だ。つまり、パイロットジェットがない状態で有鉛のガソリンが豊富にあった時代にバーっと走ってサーっと止まる道路環境ならこのT-140Vの標準設定でもかまわなかったのである。しかし、今日ではそれは夢のような日本の状態だし、キャブレターが担う役割も大変な状況になってきている。つまり、日本向けの厳しい環境をクリアし、なおかつ当初の性能を維持する、という厳しい状況で作動させるのである。
 そこへ昔のキャブ持ってくるよりは今のキャブを持ってきた方がいいではないか。そこで、ようやく取り付けフランジの問題がクリアできたので今回のミクニの取り付けとなった次第だ。

  [ 次に進む ]

inserted by FC2 system