ダイナコイル装着
 どうも点火系に納得がいかない。ルーカスのコイル自体の劣化はあるだろうし、12Vコイルを6Vで作動させているところに問題が無いわけではない。かといって、ボイヤーのトランジスタ点火システムはそれなりにこの不備を補っている。
 そういったところで、コヴェントリーの清水さんにアドバイスをいただいて、TX650のコイルの新品をキープしているが、イマイチ使う気にならない。もちろん、どこが不足というものはないのだが。
 ことの起こりの全ては、このボイヤーのトランジスタ点火に変更してから発生し始めた。その前に、コンタクトポイント(バッテリー)点火ではNGKの7番相当のスプリットファイアープラグで珍しくこんがり焼けていた。トランジスタ点火にしたときに6番に下げなければならなかった。残念なことに、ほとんど同時にAMALキャブの通常のT-140Vへの装備状態から、雨水の侵入を防ぐ手だてに有効なものが無く、キャブレターの張り付きが頻繁に起き始め、おまけに、インテークマニホールドが金属製なので、エンジンの熱がキャブに移り、ミキシングボウルが夏場はさわれなくなるほどに温度が上昇する。これを防ぐ方法にしても、インシュレーターの作製など、ワンオフの製作で金額が張りすぎるため、SUDCO MIKUNIに変更せざるを得なかった。
 インマニ関係などで散々苦労して、プラグを5番にまで下げ、低い回転域では快調でも、高回転へのつながりなど、まだまだ完璧とは言い難い点は確かにあるが、SUDCO MIKUNIにようやく一定の結果を得た。
 一つだけ言えることとして、この状態ではイマイチ、エンジンの力強さが感じられないことにある。もっとガンガン来るところがあってもいい、いや、確かに以前のポイント点火の時はこれがあったし、トランジスタにしたときに、えらくスムースになったこと、もっともキャブレターの変更が、こういった結果をもたらしたのだろうけど、こういう状態にどうしても納得いかなかった。
 混合気に火を飛ばして爆発させる。この行程に不足しているものは何か?。ようやく思いついたのは、古いスバルの360の点火コイルを、ボッシュのブルーコイルに交換したときのことだ。容量はノーマルの2倍。唖然とする性能であった。が、今度はポイント面、ディストリビューターの接点がことのごとくおかしくなる。そのため、今でもポイント点火方式の簡単なチューニング手段としてリリースされているボン・ファイアーのコンデンサーを搭載してこれを解決した。
 SR500にも専用に作られたスーパーサンダーという点火コイルを装着している。これも形が大きいため、容量が大きいのは間違いがない。もちろん抵抗値などもSR専用になっているのはいうまでもない。こういった目に見えるところ、目には見えないところなど、測定器を持たないアマチュアとしては感覚的に「性能向上」を感じとって判断を下している。
 ここで注目するのは、ある程度形式の古いエンジンに、新式の点火システムを加えるときのセオリーみたいなものの根本は「強い火花を飛ばす」ことにあるはずだ。なおかつ、トランジスタ点火では火花が出ている時間が長い、と言われる。この2つのことを考慮すると、トライアンフのオリジナルコイルは容量が不足していないまでも、経年による劣化が多分にあるのではないか、ということに思い当たる。ポイント点火ならコンデンサーに蓄えられた電力を一気に放電すればいいが、トランジスタになると無接点ピックアップからの電力を増幅するユニット(アンプ)が必要になる。増幅度が多ければ、点火コイルも容量の大きいものが必要ではないか、と結論づける。ハイテンションコードをいいものに交換しても、根本の強い火花は元が役不足だからダメだ。良質の高圧、自動制御の点火タイミングなどは、システム改善でいい結果を出している。
 そうなると、元を受けとめプラグまでに強い良質の電気を飛ばすために必要なものは何か、ということになる、と僕は感じ始めた。いつになっても経験をベースに実験をしての結論だ。
 どういったコイルが最適か?。全く分からない。強いていえば、形の大きいもの=容量の大きいもの、として、ボイヤー推薦の2個封入のコイルを当たってみよう、と考えた。
 以前カワサキのW1が、無駄火を飛ばす方式を取っていたことは、あまり知られていない。特にポイントが一つの時はポイントの開閉カムが4サイクルエンジンの2行程ごとにコンタクトポイントを通過し、なおかつ二気筒エンジンだから、必要のないところにも火が出るシステムだ。調整もすごく簡単だった。たまたま、ブリティッシュビートへ電話したとき、この方式のコイルを教えてもらった。それが、ダイナコイルだ。再度検討した結果、取り付けなどを考慮して「いける」と思ったので発注をした。
 本来なら、アクティブから単体で入手できるのだが、配線の関係などから専門店から入手した方が、価格以上のものを得られるので、今回はブリティッシュビートから購入した。

取り付け


 いつの場合でも、こういった汎用のアフターマーケットパーツの装着関係には頭を悩ます。今回のダイナコイルはまともな形とは言い難い。電話での確認で形状、大きさなど分かるはずがない。特に国産のコイルを見慣れているものにとっては異様ですらある。何しろ国産のオープンのコイルなら、コアがコイルを囲む"D"の形になっているが、DYNAコイルではまるで「団子」だ。センターにコアとなる鉄心が一本通っていて、その周りに緑色の樹脂に封入されたコイルが2個入っている、というものだ。コードの取り出し口などイビツである。現在のコイルをはずして装着も考えたが、リアフェンダーとの隙間へ滑り込ませるのは難しい。
 しからば、650のようにタンクの下に持ってくる方法もあるが、ハーネスを分解しなくてはならず、プラグまでの電送距離は短くなるが、トランジスタ点火ユニットから離れるために、こちらの条件が悪くなる。
 考えに考えたあげく、とりあえずフレームのオイルタンク部分にある元のエアクリーナーボックス取り付けステーを流用する方法に落ちついた。一応落ちついただけで、まだいい場所があるかもしれない。
 そう思って、浅川トライアンフの写真もどうやらそうなっているし、アメリカのダートトラックレーサーも多くのトライアンフはシートの下側からハイテンションコードが出ている。電送関係はこの部分に集中させているのではないだろうか。ま、オイルの熱は極力伝わらないようにして、仮組を行い、状態を把握しておいた。もっとも、DYNAコイルの発熱がどの程度のものか、判断は付いていない。
 そうと決まったら、トライアンフ側のステー(ダボ)、コイルの取り付け寸法などをメモっておいてDIYショップを散策する。今回はステーと厚いスポンジ、それにタイラップ、そしてボルトナット、それに汎用の穴あきステンレス板を購入。
 概略は、取り付けステーの穴は9.5mm径。痛し痒しのインチサイズだが、ここは8mmのISOサイズを流用する。ゆるむことはないがセルフロックナットを使用する。
 キャブレターとコイルのハイテンションコード取り出し口の関係から、フレーム右のステーを使用する。この方法だと左側に装着すればキャブレターに干渉する。
 ステンレス板でメインサポート板を作り、厚めのスポンジを介して、上側と下側はタイラップで引っ張る方式で固定した。はステーとL型金具を共締めすることにする。メインチューブのオイルタンクとはスポンジラバーで干渉されている、という方法だ。
 早速用意したものは次のとおり。
●汎用穴あき0.3mm厚のステンレス板 1枚(本)
(半分にカットして上下のタイラップサポート板に使用する)
●厚手のスポンジと同質のスポンジテープ
●8mm×20mmのボルト・ナット 1組
●6mm×25mmのボルト・ナット 1組
●タイラップの長いもの 数本
 装着、配線は簡単だ。ブリティッシュビートの勧めで、「普通のハイテンションコードを使用すること」とあったが、今まで装着していたテーラーのケーブルを流用する。コイルまでのラインは直接がいいのだが、短いために20芯(AWG#20相当)の赤・黒のコードでハーネスを作製することにした。
 後のことを考えて、アンプから出ているコードはカットしないこととする。
 数センチ左右のプラグまでの距離が変わるが無視する。
●プラグコード、コイル周りの配線をはずす。
●右のキャブをはずす。
●ダイナコイルを取り付ける。
●配線を間違いなく行う。
◆一カ所だけ、車体にアースするところがあるが、ボイヤーのキットの時とほぼ同じである。僕はバッテリーケースの取り付け部分にした。
◆プラグコードが出る向きは下側になるようにすること。
●元のコイルをはずす。
●配線を確認する。
●キャブレターを取り付ける。
 以上で完了だ。コイル単体の取り付けに時間がかかる程度で、サポート板の加工が終わっていれば1時間もあれば充分であろう。

 ここで一服。再度配線の確認をする。これをやらないと、万一の場合、ボイヤーのトランジスタ点火ユニット(アンプ)が壊れる場合がある。
 配線に間違いがなかったら、新品のプラグに変更して、エンジンを始動する。


インプレッション(1)


 いつものエンジンの状態だ。どこといって変わったところはない。不思議な感覚だ。いつものとおりの感覚、これで判断を下すから、素人は困る。配線も変わらずコイルとプラグだけ替えたんだ。他は何も触っていない。普通と同じだ。それゆえ、劇的な変化を望む素人は結果が出ない、とばかりに結論をすぐに出してしまう。ここが困る一因である。
 エンジンが温もってアクセルをプリップしても本来の変化がない。ところがである、いつものウォーミングアップ完了時の2000回転以上に上げたときに、異変を感じた。何だこれは。妙にうきうきするような、そういった気分だ。
 いざ、試乗。コースはいつものテストコース。
 いやはや、ホントにビックリ仰天である。確かに同じバイクである。何もかも数日前の同じ車両である。違うのはコイルだけだ。アイドル状態も問題ない。加速にしてもいつもと違う。ピックアップとかそういったものではなく、車格が一つ上がった感じがするのだ。強いて言うと750ccのこのトライアンフが850ccのトライアンフのようになった感じがしてくる。
 あれ、これってSRの時もそうだった。冒頭のスバルの時もそうだった。唯一違うのは点火方式だ。最近、SRのトランジスタ点火がヒットしているようだけど、こういうフィーリングを言うのではないだろうか。逆に、SRの場合、コイルの容量が不足すると、こういった変化は感じられないかもしれない。

変更点


 しばらく走行していて、妙におかしいことに気がついた。不具合といわれるものは無いのだが、僕一流の妙な感覚が支配するのである。たとえが悪いが、仕事中に職場の軽四輪に乗っていて、バイパスを通るとき、傍らをベントレーの巨体が音もなく高速で抜き去っていく。しかもエレガントに。
 こういった、加速感が無いのだ。パンチは確かにある。それ以上にポイント点火の時は力強かった。ところが、パンチ力とスムースさ、という相反するものが同居していないのだ。今のままではスゴイだけで終わってしまう。何か豪華というか、「高性能」の何かが欠けているように感じたのだ。
 実のところ、これには参った。結線も何も装着に間違いない。参考資料も乏しい。困った。こういったときは一歩退いて元に戻ろう。どこも悪いところはないのだけれど。
 まず、ボイヤーのマニュアル。ここで一つだけ気になったところを見つけた。カンタイプのコイル(ノーマルのルーカスのコイル)は取り付けバンドを締めすぎてリークさせてしまうことに注意!、というのがある。
 そういえば、トライデント、ロケット3のレーサーはルーカスのレーシングコイル(カンタイプ)をラバーで包んでバンド止めにしてある。ひどい場合はテープでグルグル巻きにして取り付けられているものもある。DYNAコイルは中心のコアと電極の関係は全くないのだから、この部分にある穴を利用してリジットに装着してもいいはずなんだ。
 ノーマルはどうかっていえば、あれれ、ラバーの大きいグロメットの中に上から突っ込んである。自動者にしても同じようにモノコックのエンジンルームの中に装着されている。車体が揺れるとコイルも同じく揺れる方式だ。こういったことから考えると、トライアンフの場合はコイルはある程度フリーにしておく必要がありそうだ。おまけに放熱も考えないとならない。どうやら、こういった点がポイントではないだろうか、と考えた。
 再度浅川トライアンフを見てみると、何とコイルはセンターフレームの上と下でタイラップによってつり下げ、引っ張りだけで止まっているではないか。最初の取り付けは僕もこの方式にならった。
 しかし、オイルタンクの発熱以上にDYNAコイルの発熱も結構ある。やはり、ラバースポンジこそ介しているが、オイルタンクに接して装着するのは、やはり良くないように思う。
 ブリティッシュビートに再び電話をする。教えていただいたのは、バッテリーケースの下にコイルが来るようにして3mm厚のアルミ板で「コの字」のサポート板を作って取り付けること、という返答であった。事実アクティブのカタログにも同様の写真は載っているが、元の取り付け位置がある場合はいいが、今回は参考にならない。
 散々考えた末、写真のようにハイテンションコードが下側から出るような取り付けを考えた。こうやればコイル自体も通風を妨げるものがない。メインチューブの太いオイルタンクは断面が円だから、その後ろにあるコイルは乱気流に助けられて冷却も行える、など、考えていた。ここなら、ラフに取り付けてもリアフェンダーなどに干渉することはない。

●とりあえず、L字型の取り付け金具を2個こしらえる。
●L字金具の縦横とも65〜70mmの長さが必要だ。140mm×35mmのプレートを真ん中から直角に曲げればいい。今回は厚さは薄いが粘りのある鉄板を使用した。
(3mm厚のアルミ板など加工し易いものでOK )
●ダボには8mm×20mmの六角ボルト・ナットセットで取り付ける
●L金具の横への取り付けはコイルの鉄心コアが上になるようにして、6mm×25mmの六角ボルト・ナットで装着する。

 コイルの樹脂は長時間走っても触れる程度の温度上昇だ。中心の鉄心(コア)は本当に熱くなる。したがって、今回は「コの字」サポートではなく、L字型に加工した取り付け金具をオイルタンクに溶接されているエアクリーナーボックスの取り付けステーを利用して取り付け、L字の水平部分にコイルを載せる方法を採った。コイルに取り付け部分が幅広だから、放熱効果もある程度期待できる。


インプレッション(2)


 これで万全である。テスト走行はいつものテストコース。まずもって、気候の変化などでタイラップが切れるなどの不安がないし、少々スカチューンになっているが、バッテリーの下側ということで、雨水に対しても少々アドバンテージを持っている。この変更で一応の装備を終わることとしたい。
 エンジン始動、いつもどおり、唯一の違いはチョークを引かなくてもアクセル操作はできないが、エンジンが回ることである。これには少々驚いた。
 一応のウォーミングアップを3分程度。オイルはほぼ循環する。今まではここで転けていたんだ。テストコースへ入るなり大異変が起きた。5速で無理なく加速し始めた。通常50km/hと思うような感覚でも70km/h付近をスミスのメーターが行き来している。決して飛ばしているという感じがないのにだ。加速は重いがレスポンスはいい。これはキャブレターの再調整だ。
 妙にうきうき気分で帰ってきた。

インプレッション(3)


 ここで、ハイテンションコードをブリティッシュビートから送られてきた矢崎電線のごく一般的なものに交換する。理由は定かでないが、ブリティッシュビートの推薦だから、間違いはないであろう。端子を半田付けして装着。プラグキャップはいつものNGKの抵抗入りだ。
 あれあれ、テイラーのコードは何だったんだろうか。どうしてもこういったコードは得手不得手が存在するようだ。少々異なるが航空機用の金属製のプラグキャップがバイクに使用できないのによく似ている。すなわち、どういった発電内容で、どういった抵抗値のコイルを使用し、どういったプラグキャップを使用するか、で微妙に異なった変化を呈するのではないだろうか。無理にスパイラル状の芯線でなくても、それなりの強力なものがあれば普通のハイテンションコードで十分なのではないだろうか。
 しかし、「ここぞ」、というときに思い切ったフィーリングが姿を消してしまっている。これでは、いつものテストコースの務田(むでん)の坂を上りきれない。ここが本来  4速のままか5速にするか迷うようなところなんだが、これを自然に4速ホールドになってしまう。ごく普通に走る分には過不足無いが、高速道路から一般道まで、気分良くアクセルワークを行えるようにするには、最初のテイラーのコードの方がいいように感じてきた。
 そういわれてみれば、汎用の黄色いアクセルコードなど最近では見向きもされなくなったようだけど、こういったパーツこそが必要なんではないだろうか。
 今回はテイラーのコードの芯線を長めに出して、金具の底を一周させてダイレクトに取り付けることにした。

インプレッション(4)


 再びいつものテストコースへ入れる。広見町、東仲(ひがしなか)の直線で5速ホールドのまま100km/h位に行くのを確認する。不思議なことだがスピードメーターの指針がスーっと上がっていく。「もう少し開けてもいいよ」と言っているようにも感じるストレスのなさだ。
 低速域でもおかしい振動などが出ない。元のサイドカバー周りは簡易スカチューンタイプになっているが、問題はエアクリーナーの大きさが今度は引っかかってくる。それにしても、いい点火システムにいいコイル、それにプラグへ送る良質のハイテンションコードがなければこういった結果にはならないだろう。

まとめ

 点火系は格段の向上を得た。次は再び吸排気系だ。こうやって煮詰めていくわけだから、実のところ苦痛でもあり、楽しみでもあるわけだ。最近のバイクにはずいぶんとボルトオンのパーツが多くなった。が、これら多くのパーツから最適のものを選び出す苦労は並大抵ではないはずだ。簡単なようでもなかなか難しい。ましてや、言ったところで何にもならないが、僕のように片道2時間もかけて松山のN部品まで数百円のパーツを購入しに出かけるなどはできない。困難は都会の方々と違ってすさまじい時間と金額のロスになるわけだ。
 僕のように長年バイクに関わっていると気にもならないことだけど、一般の人がSRなんぞでこれをやるとなると、大変な苦労を強いられる。
 余談が過ぎたが、今回のコイルは劇的な変化をもたらしてくれた。当分の間はトライアンフは快調であろう。来る10月21日22日の花園村へのツーリングが楽しみになった。

[もどる]

 
  inserted by FC2 system