トライアンフ T-140Vのリアブレーキャリパーについての一考察

1998年に記載して小冊子にしていたものですが、今回急に思い立ちアップロードすることとしました。内容的には古いとは思いますが、もし該当される方の参考になれば幸いです。

はじめに
 1976年から新車よりずっと乗り続けている私のトライアンフT-140Vですが、一昨年(1996年)よりリアブレーキが引きずりはじめ、その原因が分からずに、ずいぶんと悩んでおりました。快調に作動をしているフロントブレーキと同じキャリパーが装着されてるにもかかわらず、それが不調なのに納得がいかなかったのです。
 その間、個人として色々と対処方法を試してみた結果、稚拙ながらようやく一つの解決策のようなものが見つかったのでここに報告いたします。
 以下、報告するのは私のT-140Vに対して行ったの解決策です。必ずしもリアブレーキがディスク仕様になったすべてのT-140シリーズに合致するとは思われませんが、多くのユーザーに本レポートが参考になればと思い報告いたします。

症状と傾向
1.経験からしか申し上げられませんが、新車より数千キロメートル走行したときリアブレーキキャリパーがディスクプレートと干渉して、その一部分が削り取られた覚えがあります。中には私と同様の状態になっ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 あるいは、これから申し述べるブレーキパッドの引きずりとが一緒になって、最終段階では熱膨張でブレーキロックを経験された方もいらっしゃるのではないかと思います。

2.T-140Vには厚さ5@ほどの鉄製のリアブレーキキャリパーサポート板(アンカー)が使用されています。悪いことにキャリパー取り付けボルト部分が内側へ2段に曲げてあり、なおかつクリアランス部分の切り欠きを含めてRをつけて曲げらているはずです。
 キャリパーとディスクプレートのクリアランスを均一にするために、素人のサンデーメカニックがサポート板を修正するにはアクスルシャフト(スピンドル)がスピードメータードライブユニットとサポート板を通して共締めになる取り付け方法により、スイングアームの状態も加わって多くの困難が予想されます。
 現在、資料となる数少ないトライデントやBSAロケット3のレーサーをご覧になると、リアキャリパーの取り付けにはかなり苦労している様子がお分かりになると思います。もっともレーサーにはスピードメータードライブユニットが必要ないし、キャリパーにフローティングシステムが採られているものが大半です。手がかりとなる車体右側の写真が少ないし、この部分がマフラーで隠れている場合もあり正確な点は分からない状態です。
 キャリパーサポート板を新品に変更しても、おそらくこの傾向は変わらないと思います。(ご存知のとおり、T-140Eではサポートはアルミダイキャストの強固なものになっており、スピードメータードライブユニットは左のスプロケット側に取り付けられていることが、その事実を物語っています)

とりあえずの対処方法
1. まず、このような状態になると多くの場合ブレーキパッドの左右を入れ替えをされるのではないでしょうか。この方法は減ったパッドなら可能と思いますが、しばらくするとピストンの動きがシブくなり作動が悪くなるとはずです。
 それで、新品のパッドと交換すると、余計に引きずりが出るようになるのではないでしょうか。若干パッドの材質も変わっているようです。過去のロッキードのパッドはかなり減りが少ないので交換されないことが多いかもしれません。

2. 私の採った方法はディスクプレートとキャリパーが干渉していたときなので、当時の「カン」として単純にキャリパーとディスクの外側、内側の間隙を均一にすればいいと考えて、スピードメータードライブユニットの浅い凹みに入れてある幅広の鉄製ワッシャーの外側に自転車の部品と思うのですが、鉄製で4@厚程度の比較的外径の小さいワッシャーを入れてキャリパーサポート板との間隔をとって対処をしていました。この時点では一応の成功でした。
 ところが、一人でタイヤ交換をする時などマフラーの取り外しと装着以上に、このワッシャーの装着に手間がかかったのはいうまでもありません。
 しかし、しばらくすると次に記す余計な弊害が発生して、この症状の原因究明に多くの時間を費やしてしまうことになったわけです。

この「とりあえず」方法での欠点
1. オリジナルのスターメー・アーチャー製のスピードメータードライブユニットはハウジングの材質がアンチモニーでできています。したがって、ギア軸受けであるシンチュウ製のブッシュがガタつきだしたり、経年変化でハウジング自体が変形しだすと修正不能になってしまいます。

2. それより早く、リアホイールのハブに取り付けてあるスピードメータードライブユニットとの噛み合い部分に、アクスルシャフト(スピンドル)取り付けナットの締め付けトルクが影響してでしょうか、ハウジング中心部が外側へ迫り出してきました。そのため、押し込まれたハウジングがリアホイールのハブを少しずつ削りはじめます。

3. 特に前述のスペーサーワッシャーの外径が小さい場合など、その影響は最終的にスピードメータードライブユニットハウジングの中心部をごっそり抜け落とす結果に至らせてしまいます。(私のT-140Vがそうでした)
 もちろん、その防止用にスピードメータードライブユニットの内側に薄いシムを入れることもできますが、好ましい方法ではないように思います。ユニットにはグリスニップルもありますが、柔らかいグリスでは用をなしません。走行中にスピードメーターの指針が50H/h、70H/h程度を表示するときに針がブルブル震え出すと危ない状況になる前兆と思って間違いありません。この点はケーブルが影響しているとは思われません。
 ユニットから溶け出たグリスはディスクプレートに飛散して付着します。

4. 修正しようとしてもハウジングはアンチモニーのため、溶接はおろか熱が加えられないので、加工など一切受け付けないのです。
 現行のアフターマーケット製のスピードメータードライブユニットはかなり頑丈にできているため、この症状は起きないようです。(スターメー・アーチャーの文字はなくて、アルミダイキャストになっているようです。)
 また、取り付けには本来は広いワッシャーなど必要ないもので、多くの英車などでリアブレーキがドラムのタイプでは、同じタイプのスピードメータードライブユニットはダイレクトで取り付けられているはずです

5. ご存知のように、T-140V装着のAP(ロッキード)製ブレーキキャリパーは対向ピストン作動です。当然、左右のピストンは均等に出るものと思われがちです。そのため、前述の「とりあえず」の方法を採ることによって、ピストンが均等に出ることを信じるに陥りやすいのが人情です。(フロントブレーキを見ればそうならないのは一目瞭然なのですが。)
 また、同様の形状をしたCP-2696と違い、ノーマルは鋳鉄製の重いものが装着されています。(CP-2696とオリジナルの内部オリフィスの違いなどは確認していません)
 現在のレベルではフローティング形式にしなければ、左右から締め付ける対向ピストン方式のキャリパーは、本来の用はなさないように思われます。当然、フロントブレーキはディスクプレートをフローティング方式にしてあるはずです。

一応の完成方式
 以上のことから、ブレーキキャリパー後方から覗いて左右のピストンがキャリパーのシールストッパー(リテーナー)より出ている状態にすることを最大の条件として、その出方は少なくともブレーキペダルを離したときに、ピストンがこの状態に戻り、なおかつ、ブレーキパッドとディスクが干渉しないようにするにはどうすればいいかを考えてみました。
 その結果は、やはりスペーサーを入れるのが最適という考えにまとまり、次のように処理してみました。

1.まず、使用不能となったスピードメータードライブユニットを現行のアフターマーケット製のものに交換しました。前のパーツを持参し、専門店でギア比などを確 認されるようにお願いします。
  もし、今でもスターメー・アーチャー製のユニットが作動しているのなら、製品が貴重なので動体保存されておくといいと思います。

2.パッドを新品に替えました。
 現在のものはセンターに溝が切ってあるので、古いタイプと容易に判別がつくはずです。また、多くはロッキードの文字がありません。
 装着中のもので使用に耐える厚さなら、真ん中に金切り鋸で溝を切り込んでおくといいと思います。本来はディスクがメッキタイプ用のものと鋳鉄用のものと2種類あったのですが、現在は分類されていないようです。

3.次に、キャリパーシールを交換し、それにマスターシリンダーはリペアキットを用いてパーツを交換しました。
 最近各誌で言われ始めたことを実行したのですが、ブレーキキャリパーのピストンをわずかに(8@程度)出して外側をシリコングリスでていねいに磨きました。
 これは、どの車種でもディスクブレーキを装着したバイクにはお奨めします。ただし、絶対に普通のグリスは使わないようにしてください。(ハスコの特殊工具がディーラーで借用できれば、それでピストンを回転させて今の位置を変えておくと、いっそういいと思います。)
 そして、同じ程度ピストンを出しては戻しの繰り返し、通称「ピストンをもむ」行為を数度行っておいていただきたいと思います。
 
4.スペーサーのワッシャーを製作するのために2@厚のアルミ板を用意します。
 大きさは10B×10Bあれば十分で、材質は日曜大工店で購入できるの普通のアルミ板です。

5.簡便な製作方法ですが、先にスピードメータードライブユニット外側の凹みに入っている鉄製の広いワッシャーのシャフト(スピンドル)が通る穴と同じ口径の穴をアルミ板に開けます。
 ボール盤があればいいのですが、電動のハンドドリルでも可能です。その場合、アルミ板をバイスに挟むとき傷がつかないように注意します。

6.次に鉄製の広いワッシャーの穴とアルミ板に開けた穴とをぴったり合わせて作業台に置き、外周を油性のフェルトペンでアルミ板に描き、金切りノコで切り取り(ジグソーなら一気にできますが)、グラインダーやスクレーパー、ヤスリを使用して仕上げをしておきます。

以下に加工の参考図を示します。

 とりたてて難しいところはないように思いますが、ワッシャーのエッジがベースのアルミ板になるべく接しないようにして切り取った後で修正、整形する方が仕上がりがきれいになると思います。 

参 考 図
 

7.出来上がったものを鉄製の広いワッシャーの外側に(小さく4か所ぐらい)合成ゴム系の接着剤(ボンドG-17など)で貼り付けます。後々のため、瞬間接着剤、エポキシの接着剤は使用しないようにします。
 スピードメータードライブユニット側に直接取りつけないのは、作ったスペーサーの材質がアルミのために、アクスル(スピンドル)ナットを締めたときに、リアキャリパーサポート板とのなじみを良くするためのダンパーの役目も負わせるためです。
 したがって、取り付けはスピードメーターユニットから右に向かって、鉄製のワッシャー、自作アルミワッシャー、キャリパーサポートの順になります。

8.元どおりに組付けをします。

まとめ
 数回ブレーキペダルを踏んでブレーキを作動させます。パッドとピストンがなじむまでわずかにディスクプレートをこすりますが、リアホイールは楽に回転します。この状態でキャリパー外側のピストンがシールストッパー(リテーナー)から1〜2@程度出ているのが分かります。内側のピストンはその倍以上出ています。
 先に述べたように、フロントブレーキキャリパーを上から注意して見られると、これと同様の状態になっているのがお分かりになるはずです。決して左右のピストンは均等に出ていません。シールの柔軟性でピストンが作動しパッドが自然に戻る方式のため、どうしてもピストンはキャリパー自体から出ていなければなりません。しかし、キャリパーサポートプレートに根本の修正は加えていないために、パッドは斜めにディスクを締め付けるように作動すると思います。
 今回製作したシム(ワッシャー)は加工の容易さでアルミを選んだだけではありません。一つの緩衝材であり、装着時リアキャリパーサポート板との接面に対してフィットしやすい意味も含んでいるためで、他の硬い材質はこういった用件を満たさない、と確信します。
 ロッキードのキャリパーは対抗ピストンですが、完全にフローティングさせないとその用はなさないように思います。また、ピストンが同時に同量作動しません。しかし、フロントブレーキはノーマルでも想像以上に効くのです。やはり、強固なリアキャリパーサポート板が必要ですし、それを保持するためスイングアームも強化したものが必要になるはずです。
 仮に現在のままでリアブレーキをフローティングサポートにする場合は、どうしてもスピードメータードライブユニットが障害となって加工が難しいと思います。ブレーキディスクを前後共通化したため、オリジナルキャリパーサポートの意匠が私たちの通常の考え方と異り、とりまわしが複雑になっています。
 おそらく、メリデンの従業員が時代のニーズに合わすために、左のシフトレバー方式に改修したことに合わせて、あわててリアブレーキをディスク化した、なおかつ取って付けたような方法でその機構を現用フレームに装着したためだろうと想像します。
 また、左右パッドの中間にブレーキディスクがくるように調整すると、キャリパーの位置関係と内部オリフィス径との関係でブレーキフルードが左右均一に流れないため、ピストンは同一に作動しない。よけいに引きずるようになる。ここが、先に述べたように過去何度も試行錯誤を繰り返したところであります。
 そのため、当初パッドが減った状態で4@厚程度のワッシャーを持ってきたのです。この状態で新品のパッドを装着すると、キャリパー外側のピストンは多く出てくるが、その位置で止まったまま、内側のピストンはワッシャーの厚さの関係から一層戻り切らずに引きずりを起こすことになります。このワッシャーをはずしてしまうと、内側のピストンだけが出て外側はシールの弾性が止められた位置に止まったままになってしまいます。このピストンの作動がシールの戻りだけにたよっていることに対して微妙な間隙が必要である、しかも外側のピストンと内側のピストンの間隙は異なることに気がつかなかったわけです。
 なお、OZハウスの小関氏は「ディスクとパッドとの間隙は0.2@」とある関係書物でレポートされています。
 最初から装着されている鉄製の広いワッシャーをもう一枚追加されていらっしゃる方も多いと聞きます。また、キャリパー取り付け部に小さいワッシャーを挟む場合もあると聞くのですが、経験上は今回申し述べた鉄製の広いワッシャーに2@の厚さで作った同じ外径のアルミワッシャーをシムとして重ねる、というのが私としてはベストでした。パッドが減った場合でも、この厚さだと左右のピストンは確実に作動します。
 リリースされて(この時点で)22年になるT-140V、1976年モデルからのリアブレーキのディスク仕様が今もって元気で走っていること自体が驚異と思うのですが、ラフではあっても各部はしっかりしています。できればブレーキペダル部分を新しくして不確実なフルードラインのとり回しとリアマスターシリンダー部分を含めてリアブレーキ部分を何とかしたい、と考えている昨今であります。
 今回のレポートは私のT-140Vを主に申し述べました。したがって、ここに至るまでに1〜4@までの厚さのアルミ板で確認をした結果、2@の厚さで落ち着いた次第です。そのため、ある方はもう少し厚さが必要だったり、私と同じ思いをした、という方もいらっしゃるやも分かりません。一方、最初からこういった問題は起きていない、とか、もっといい方法がある、とされる方もいらっしゃるでしょう。私が行った方法がすべてのT-140Vにとってベストでない点は納得されたと思います。
 確かに昔のバイク、しかも外車でマイナーな存在ではありますが、機構が簡単、軽い、今でもある程度パーツが揃うなど捨てがたい魅力を持っています。どうか今回の私のつたないレポート以上に、オーナーの方々が持っていらっしゃるチップスをいろいろレポートしていただき、この世界を楽しいものに盛り上げていただきたいと思います。

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