花園村を目指して
久々にシリンダーヘッドをはずす

はじめに
 2004年は相当に苦しい夏でした。ことに9月からの長引く残暑は、10月になっても半袖のシャツを要求する始末。それに数多い台風の襲来と上陸は、一 地区に数度の被害をもたらせる結果になってしまいました。
 8月も中旬を過ぎた頃、SUDCO MIKUNIのキャブレターが一定のパフォーマンスを出し始めて満足していたT-140Vですが、シリンダーバレル付近にオイルが付着するのを発見した ところです。オイル交換もままならぬ時でしたので、そのまま放っておいたのがいけなかったのでしょうか、その後オイルを交換しても一向に改善は 見られません。
 どうしてもシリンダーヘッドをはずして、プッシュロッドチューブのシールを交換しなければダメのようだ、と決心したところでした。



まずは...

 オイルが漏れている箇所はどうやらエンジン前面、プッシュロッドチューブの下側部分のように感じられました。これはグニャグニャの白いシール剤の劣化で はない か、と感じ、プッシュロッドチューブの交換のため一度シリンダーヘッドを取り外した10年前を思い起こしていました。
 オイルが漏れる間もオイル交換とキャブのセッティングとの煮詰めで走り回っていたのですが、どうにもシリンダーヘッドをはずして組み付けるための時間が とれず、それに青空工房ゆえの 連続した好天に恵まれることができないまま、ズルズルと作業を引っ張ったところでした。
 西予市のT君からは「どうもオイル下がりを起こしているようだが... 」と進言があったのは事実ですが、どうしてもオイルが下りてくるような要因が私には感じられないでいたところでした。
 ともかくプッシュロッドチューブとタペットブロックを挟むシール剤を交換すれば、OKになるはず!。それにはシリンダーヘッドをはずすわけだから、ピス トン、燃焼室の確認 もできるため、とにかく、作業を開始することとして、準備を進めました。



パーツについて
 トライアンフのツインは、カムシャフトがクランクケース側に設置されています。本来なら、エンジン全体にわたり、最初のオーバーホールを行うところです が、(劣悪な自賠責保険料、車検の1年化などで走れなかった過去が尾を引き)未だに30000kmに達していない点などから、今回もシリンダーヘッドのみ をはずす整備としまし た。
 ロッカースピンドルのOリングはOKですし、フィードパイプ取り付けの銅ワッシャーともども使用できるので、この点は大丈夫として、その他の必要パーツ は次 のとおりです。
  1. ロッカーボックスガスケット 2枚
  2. プッシュロッドチューブシーリングワッシャー(Oリング)2組
 これだけですね。
 一応、ヘッドガスケットは銅板ですので、焼いて元に戻して使用します。
 1.2.のパーツだけなのですが、2,は大いに悩むことになろうとは、この時には感じていませんでした。



事前の確認作業
 最初にシリンダーヘッドをはずした時から10年も過ぎると、多くのことが忘れがちになるものです。特に、その頃はMacはSE/30を使い始めて2年ぐ らいですし、今のようにデジカメもない始末。そ んな中で留意点などの記載はメモ書き、主要部分の写真はニコンFによる塩銀写真程度でしたから、すでに、私の頭の中にある記憶の世界からは遠のいていま す。
 そのような状態ではありますが、なぜ、シリンダーヘッドの取り外しの概要を忘れないか、というと、10年前は実に2回も取り外しと装着を行っていたから です。 実に単純なことでしたが、プッシュロッドチューブ上側のOリングの取り付けミスのために... 。
 その甲斐あって、今回はスパナを手にしても感トルクも正確になっています。もっともトルクレンチも持っていますが、カンも結構生きるものです。

 さ、まずはホドキをやりますが、このところは薄手の11mm、13mmのスパナ、メガネが必要です。T-140Vには失礼ですが、国産の11mm、 13mmのスパナ、レンチの方が1/2、7/16サイズよりフィット感がいいのです。
 おびただしいオイルの除去は、私が使用していたトランクスとアンダーシャツに全てを任せるとして、自転車の空気入れのエアスプレー、缶入りスプレーの パーツクリーナー、 マイナスドライバー、鋸歯のスクレーパーなどで綺麗にする、としたアナクロに近いアナログ作業で処理する、と決断しました。
 残るは、パーツです。どこから取り寄せるか、この点はグラッドストーンのマスターの話、コベントリーの清水さん、それにサイドバルブさんとの会話などか ら、僕のT-140Vの実際とを照らし合わせて決定 することとしました。
 分解、清掃、再組み立ては数時間で終わる、と見て、1日の作業でOKと気楽さを決め込むこととしました。
 とにかく、漏れるオイルを止める!、が第一です。
 ところが、自然はそれを許しません。とにかく、数度の台風襲来と1日と持たない晴天のため、連続作業ができなかった9月でありました。



パーツ選び
 オイル漏れの根幹は、プッシュロッドチューブの下側である、と信じて疑わなかったのですが、グラッドストーンのマスターとの電話での話から、どうもそう ではないの ではないか、ということが朧気ながら解り始めました。
 それに、仮にプッシュロッドチューブのシール剤が原因としても、現在のところ耐熱温度に対して、120℃以上持ちこたえるものがない、ともおっしゃって ました。
 プッシュロッドチューブの形式、内部のOリングの在る無しにはこだわらない、とのことでした。
 マスターは花園村へ来られるということですので、お会いできることを楽しみにするということで、電話の会話を終えたところです。

 一方、コベントリーの清水さんは、プッシュロッドチューブの上も角断面の白いラバーシールを使い、下側は角断面の黒いラバーを用いるとのことでした。清 水さんも内部のOリングにはこだわらないよ、とのことでした。

 一応、私のT-140Vは上がOリング、下側の内部にもOリングの装着で、一番下側の角断面のラバーシールをプッシュロッドチューブが押しつぶすことで オイルを止める旧タイプの方式を採っています。1978年頃から、プッシュロッドチューブの形式が変わり、内部のOリングも省略されます。もちろん内部に ミゾがきってあればOリングを装着可能です。
 そのために、コベントリーとサイドバルブからシールを購入することとしました。実際は現物対応です。
 ロッカーボックスのガスケットはアスベストに近いものが混入された、現在の(白い材質の)ものが手持ちにありましたので、それを使用することとします。



いよいよ取り外し
 一向に天候が良くなる気配がないまま10月を迎えてしまいました。週間予報では台風22号が通過すれば概ね天候は秋めいてくる、ということを信じ、また 10月10日は40年前の東京オリンピックの開会式の日で、その後、体育の日と定められた晴天の特異日であったので、その日から作業を行うこととしまし た。
 ところが、10月9日は雨、午後から止んだので、青空工房の床が乾いてから作業を開始しました。
 日記にも記載しているとおり、大変な結果が待ち受けていようとは、この時には感じていませんでした。

作業1 シリンダーヘッドをはずす
 燃料ホースのクランプと燃料タンクをはずし、キャブレター、マフラー、エキゾーストパイプをはずして、フレームとエンジンの取り付けサポートをはずして おきます。
 知恵の輪ではありませんが、先にインレット側のタペットカバーをはずしておかないと、フレームとエンジンの取り付けサポートボルトが抜けません!。当 然、組み付けは、この逆なのですが、ついつい忘れてしまいます。
 タペットカバーのガスケットは再利用しますので、切らないように注視してください。

 インレット、アウトレットのロッカースピンドル部分へ行くオイルのフィードパイプは歪まさないようにして袋ナットをはずし、レジ袋などで覆っておきま す。プッシュロッドの動作確認などでキックを手で下ろしたりすると、意外なほどオイルが出てきますから、ご注意の程を。

 まずは、11mm(7/16)のスパナでロッカーボックスの小さい立込のボルト2本と下側の取り付けナット3個をはずします。いずれも薄いプレーンワッ シャーが入っ ていますので無くさないように注意!。
 次にロッカーボックスのトップの2本の立て込みボルトをはずします。
 これで、大方のロッカーボックスはポコッと上に持ち上がってはずれるはずです。この時もロッカーのガスケットの切れ端が良からぬところ、そう、バルブの スプリングなどへ入り込まないように注意してください。特に今回のように、バルブをはずして摺り合わせをしない場合は要注意です。
 この方法でインレット、アウトレットのロッカーボックスをはずして、ほこりの付かないところで保管します。できればレジ袋に入れておくなりの注意を払い ます。

 続いて、シリンダーヘッドをはずすのですが、真ん中の3/8のアーレンキーのスタッドボルトナットから順に少しずつほどいていきます。
 比較的緩やかにシリンダーとガスケットにくっついていますから、ボルトがはずれると、プラスチックハンマーで軽くたたいてやると、ヘッドが動くはずで す。

 フレームのトップチューブを抱え込むようにして、両側から腕を伸ばし、シリンダーヘッドをはずしにかかります。若干スムースかにかけるのですが、時間を かけて丁寧にスタッドボルトの頂点付近まで引き上げます。
 ここでも知恵の輪ですが、クラッチワイヤー、スカベンジ側から立ち上がってきているフィードホースなどがあるため、簡単にシリンダーヘッドをフレームの 外へ出せません。はずす前に考慮しておかれますよう、お願いします。(といって、マニュアルのような言い回し。でも作業をしているのは私自身です が・爆)

  

 出てきたヘッドガスケットとピストンヘッドを見て、「アア〜」と一瞬我が目を疑いました。左のピストンヘッドにオイルスラッジがこびり付いているではあ りま せんか... 。
 幸いといえば悪いのですが、シリンダーヘッドそのものには少し厚めのカーボンが堆積していることと、アウトレットバルブの傘部分には白い灰がこびり付い ていますので、典型的な街乗り状況であり、若干濃いめのセッティングで走っていたためであろう、と推測しました。

 さて、問題のオイル漏れの箇所は... 、と確認すると、どうも、プッシュロッド下側のシール部分からは漏れていない。あれれ...?。一体どこから?。まさかシリンダーベース?。ナットは強固 に締まっていますし、今回漏れる直前も大丈夫でしたから、ここではありません。
 一体どこから?。プッシュロッドチューブをシリンダーヘッドから外した瞬間、「アッ!」。カチンカチンになった上側のOリングが落ちてきました。何と前 側のOリングは硬化して切れていました。
 これは後のことにも関係があるのですが、プッシュロッドチューブの上側のオイル通過穴の数にもよるものかな、と思っていましたが、どうやら関係ないよう で、(熱による)直接Oリングの劣化から、とした方がいいように思われました。
 それじゃ、ピストンヘッドのオイルスラッジは?、となりますが、推測では、アウトレットのタペットが突いていたために、バルブが十分作動していない。そ の ために、ロッカーボックスのオイルが下りてきたために起こったことではないか、と考えました。
 いずれにしても、今回シリンダーヘッドをはずして良かったように感じます。
 ここで、休憩。少し暑い気温の中、冷たい缶コーヒーが美味でした。

 次なる戦術はピストントップにこびり付いた、このカーボンの除去です。シリンダーをはずさない作業ですから、何とか手作業で これらの多くを除去することを考えました。
 まずは、マイナスドライバーの先で削り取ります。ピストン周囲のスキッシュエリア内とかバルブに対してのえくぼ部分は小さいマイナスドライバーなどを 使って、シコシコと作業を行います。
 燃焼室も同様にカーボン除去を行いますが、バルブ周囲は汚れも少なく、均一に黒ずんでいるだけなので、手を触れないこととします。
 作業としては、このカーボン除去が一番時間がかかった、ということになります。本日の作業はこれにて終了。明日の作業に備えて、オイルまみれのウエス (下着のシャツ)でシリンダーをカバーした後、レジ袋をかぶせて、車体カバーをかけておきました。バルブやピストンなどのオイルは除去しません。

 すぐさま、丸尾温泉へ行ってオイルなどを完全におとしてサッパリ。その後のビールが非常に美味でありました。作業リフトが在れば青空工房でもラクチンな のに... 、と残念がりながらオヤスミ〜。

作業2 思いっきり確認の巻
 明けて10月10日、今日は晴天の特異日のハズなのに、外は雨。昼前に晴れたのはいいのですが、外へ出たものの、八宝亭でランチの後、伊吹町の Daiki・DIKま で足を伸ばすこととします。
 全国の方には地名を出しての超ローカルで申し訳ありません。雨のついでに、今使っている工具はKTC製のアメリカインチサイズで、いずれも遠い身内であ る旧 古谷金物店にて母からプレゼントされたものです。
 さ、 Daiki・DIKでの捜し物は実のところ、薄手の11mm、13mmのコンビネーションレンチとシックネスゲージ、それにパーツクリーナー、ソケットレ ンチのコ マのアダプターだったのですが、思いの外、アダプターが高価で、支払いがカード決済となりました。おまけにカードにICチップが埋め込まれていたもので、 処理に時間がかか るの何のって、家からDIKまでの往復4kmの距離を歩いていった身には相当につらかった。
 断続的に降る雨の間、宮脇書店での立ち読み、ホソイのアウトレットスポーツ用品店の 品物あさりなど、雨宿り時間を加味すると、実に5時間もかかっての買い物時間でした。(本当にローカルっぽくてゴメンなさい)
 折しも雨も上がったのいいのですが、青空工房の太陽光が乏しくなる時間帯のため、結局作業はできなかった次第。
 そのために、夜遅くまで、下記のことを確認していました。



プッ シュロッドチューブとシールの関連について
 現在装着してあるのは、T-140Vリリース当時からのレプリカで、千葉のストーリーさんから購入したものでした。この時のOリングは上と内部が黒のO リン グ、下側は白いフニャフニャの角断面シールの順で装着しておりました。

 それより少し前にイギリスのローバックモーターサイクルズより、プッシュロッドチューブ、ガスケット、エキパイなどを取り寄せていたところでした。当 然、その頃から、私のT-140Vに装着されていたタイプは製造されていなくって、新しいタイプのものが送られてきて、少々面食らったところでした。一番 下に装着される角断面のシールはシリコンタイプで、白いゴム状のものに比べて堅く、スタッドボルトのトルク如何ではどうなることか解らず、使用をためらっ ていたところでもあります。
 散々考えた末、ストーリーさんから送られたプッシュロッドチューブとOリングを使用して組み付けたのですが、先にも申しましたとおり、ローバックからの Oリングは、この時より少し前に組み付けたときに、上側のOリングを破損して、オイルダラダラの状態でしたので、もう一度はずして、ストーリーからのシー ルセットで組み立てた、というわけなので、実際 にはローバックから送られてきたOリングそのものを装着してテストをしていなかったところです。

 このことが再び今回の組み立てに際して、一体どういったOリングを使って組み付ければ今の時点でベストなのか?を探し出すのを本日の課題にし、執拗に現 物を比べてみました。

シール剤の確認とプッシュロッドチューブ
 まずは、白いゴム状の角断面のシールについてです。これは材質上、非常に熱には強いものに感じています。10年間もの間、劣化することなく使用できたの ですから。その代わり、上下に細かい幅、つまり、エッジなどがそれに覆い被さるような場合は裂けるようになってしまいます。後で申し上げるプッシュロッド チューブの一件がえらく影響しているのかもしれない、と感じられるところです。
 したがって、この白いものを上側に用いるとシリンダーヘッドのアルミの切削部分がシールを傷める可能性がありますし、厚みのある方を下側へ持ってくると プッシュロッドチューブの底の状態が影響するのではないか、ということが、うすうす理解できるようになりました。

 私のプッシュロッドチューブには下側の内部にミゾが切ってありますから、セオリーどおり内部へOリングを装着することとします。

 最大の難関は一番下、シリンダーのベース部分のタペットブロックを包み込む部分のシール剤です。この部分は角断面のシールが使われています。
 1976年当時はこのシールが完全につぶれて、しっかりオイルを食い止める方法になっていました。そのため、この部分は再使用できないまでにつぶれてい たことを最初のシリンダーヘッド分解時に確認しています。重複しますが、この部分に現在の半透明のシール材を用いるべきかどうか、を悩むわけです。

 一方、プッシュロッドチューブの状態はどうなっているのでしょうか?。タイプの違いを比べてみますと、ローバックから送られてきたものは無骨ですが、角 を生かした面取りがなされていて、内部構造もパイプのつなぎ方に若干の配慮が見受けられます。
 ところが、これまで付けていたストーリーから入手したものは、シール材に当たる部分が少しラフで、面修正をする必要がありました。新しいタイプに比べ て、長さも若干長いように感じました。
 上部のオイル通過穴の個数は無視できるもの、と判断します。

 問題は意外なところに存在しました。それは、「プッシュロッドチューブは垂直に装 着されるものではない」ということです。
 また、最終のシール材がつぶれてオイルを止める。そのツブレ具合を側面で食い止める「タガ」のリングがあります。
 このことから、タガの内径とプッシュロッドチューブ下面の外径は若干の隙間がないと、「いい塩梅で完全にシールできない」ということになるのではないで しょうか。

 もう一つは、古いタイプのプッシュロッドチューブでは、シールを完全に破壊する直前までつぶすことによりオイルを食い止めていた... 。と、考えてみました。
 したがって、新しいタイプのプッシュロッドチューブはそのことを加味し、簡単に整備できるよう、高さ(長さ)の再検討を行い、シール材の材質も変更した のではないか、と感じたところです。

写真の左が新しいタイプ、右がこれまで取り付けていたものです。



組付けを前提として
 プッシュロッドチューブの最下面とシール材とのギャップは、ヘッドガスケットを装着して、およそ1mmということが、トリニティースクールの富成校長が おっしゃってます。この確認方法は非常にマチマチであって、本当に1mmなのかどうか今もって不安です。清水さんは2mm程度とおっしゃってますが、それ には黒い角断面のシールを用いた場合、ということでしょう。



 確かに完全につぶれる初期の白いシール材ならこの1mmは確実な数字です。しかし、指定納入業者以外のアフターマーケットのパーツなどが出てきている 今、この数字は少々考えもののように感じます。
 私はパッキン材と金属板を用いたコンポジットタイプのヘッドガスケットも持っていますが、再利用できる銅板のガスケットを愛用しています。
 コンポジット タイプを使うと、1mmのギャップは正解かな、とも感じます。銅板なら、もう少し間が狭くなるのではないでしょうか。ただし、トップにはOリングが入って の状態でですが。
 現在の状況を考えると、デボン・トラがリリースされていた当時、すでにローバックから送られてきた新しいタイプのパーツが標準装備だったのではない か?、と考えが及びました。
 この頃は全てのT-140系のエンジンは熟成が進んで、ルーカスリタの点火システム、新しいシリンダーヘッド、ブリー ザーの装着されたロッカーボックスなど、近代的なエンジンになっているわけです。当然、プッシュロッドチューブとシール材もそれなりに簡単に装着できなけ ればならない、となっているのではないでしょうか。
 私としては、そのためのシールセットではなかったのか、と解釈し、今回はローバックから送られてきた新しいタイプのプッシュロッドチューブにサイドバル ブへ発注したシールセットを使って組み付けることにしました。





2004 年10月11日
 朝からの好天。ところがですね、気分が少し重いのです。それは昨日1日を棒に振ったことと、本日、午後6時半から会議があるため、順序よく作業を行わな いと時間切れになってしまう可能性が十分に感じられたからです。若干早めの朝食の後、段取りを付けて午前9時半より作業開始としました。
 最初はピストントップ、およびシリンダーヘッド燃焼室のカーボン除去です。一昨日は粗方の除去を終えていたところですが、とりあえずの作業のため、パー ツクリー ナーを吹き付け、カーボンを浮かせて、除去を開始しました。この時点で燃焼室にもパーツクリーナーを吹き付けておきます。
 燃焼室は少々不安でして、テストとして、ガソリン等の液が各バルブから落ちてくると、バルブの摺り合わせの作業を行わなければならないことから、T- 140Vでの花園村 への道は完全に閉ざされることになり ます。そのためのパーツクリーナーのスプレー確認だったわけです。
 幸いにも燃焼室はOKでした。
 ピストンヘッド、燃焼室ともこの辺が手作業での「それなりの仕上げ」として、作業を終えました。
 ここで一服。




 ヘッドガスケットは、ローバックから送られた少しの期間しか使っていな いも のを、妻には内緒で、台所のコンロであぶって、浴槽の残り湯に「チュン」と入れたものをクリーニングして再使用します。プライヤーで摘んでも傷が付くほど に 柔らかくなっています。銅板故にできることであります。

  

 この時点で、プッシュロッドチューブの上にダークグレー(黒)のOリングを、内部の溝に赤(茶)のOリングを装着しておきます。
 シリンダーヘッドを載せるに際して、プッシュロッドチューブの取り扱いですが、エンジンをフレームから下ろしていないのでシリンダーにプッシュロッド チューブを装着して取り付けることになります。

1.タペットブロックの段に角断面の半透明シール材を装着します。
2.タガをシリンダーに切ってある溝に装着します。
3,プッシュロッドチューブを軽く押しつけ、装着したシール材をタペットブロックの下側へ押し込みます。
4.シール材が定位置に治まっていれば、プッシュロッドチューブを立ててシリンダーヘッドを載せます。



 エンジンをフレームから下ろして作業する場合は、プッシュロッドチューブを先にシリン ダーヘッドに立ててからシリンダーに載せるようにするのがいいようです。

 はずした時と同様にフレームの左右、シリンダーヘッドの入り込みやすい側からヘッドを載せます。スタッドボルトの位置が決まるとストンとシリンダーが下 ります から、注意 をしながらプッシュロッドチュー ブを取り付け穴に合わせてヘッドを静かに下ろします。この時にプッシュロッドチューブ上側のOリングが傷つかないよう、注意します。
 また、プッシュロッドチューブのオイル通過穴は、シリンダーヘッドに刻まれたバルブ部分への溝に極力合わせるようにします。
 この時は、確認のための助っ人が1人いた方がいいかもしれませんね。(仰向けで作業をすることになる場合はご容赦の程を... 爆)

 OKなら、中央のヘックスのナットボルト、立込みのボルトを均等に締め込みます。
 「ここから先は締め込みに力がいりますよ」という、ある程度のきっちり感がつかめれば、中央のヘックスボルトナットから開始する、締め付けローテーショ ンのとおりに締め付けます。
 ロッカーボックス取り付けナットを兼ねるヘックスボルトナットには、シリンダーヘッドとの間に平ワッシャーを入れることをお忘れ無く!。これを装着しな いとシリンダーヘッドに食い込みができる し、 ロッカーボックスがひずみます。
 中央のヘックスボルトナットが2.1kg、その他が2.5kgのトルクです。意外に低いトルクと感じられるでしょうけど、この数値以上で締め付けると、 少しやっかいな、パワーの出ないエンジンになる可能性がなきにしもあらず、と感じています。
 ここで小休止。



いよいよロッカーボックスを取り付け


 プッシュロッドを装着します。
 ガスケットにはプッシュロッドのガイドがあるので、先にガスケットを装備します。その後で、プッシュロッドのタペットのボール部分が当たる窪み部分にグ リスを塗って、粘りけを利用して貼り付けることとしま す。
 ガスケットを装着しているため、クランクを手で下ろしてプッシュロッドが正常に動 けば、プッシュロッドはクランク ケース側のタペットと一体になったとして、OKとします。

 ロッカーボックスを取り付けます。今回は次のようにするといいのでは... 。
  1. キックアームをゆっくり下ろしてインレット、アウトレットのプッシュロッドが交互に動くことを再確認しておきます。特にタペットの球形部分が 当たるところ が別材質で外へ はみ出していますから、隣のプッシュロッドが乗っかって動く可能性があるので注意します。簡単な作業ですが、隣のプッシュロッドの間隙は想像より少ないと いうことで す。
  2. 動きが確認できればロッカーボックスをパカンと上から載せます。この時もキックアームを手で押しながら、ロッカーアームの動きに注意して組み 付けます。
  3. プッシュロッドが正常に動くことを確認できれば、左右のインレット(アウトレット)のタペットクリアランスができる位置にプッシュロッドを下 ろして、トップの立て込みボルトを軽く締め込みます。
  4. 再度確認してOKなら、2本の細いスタッドボルト、3個のナットを装着しておきます。インレット(アウトレット)同様に作業します。
  5. トップの立て込みボルトを締め付けた後、左右の小さい立て込みボルト、下側の3個のナットを締め付けます。(薄い平ワッシャーをお忘れ無く)


ロッカーボックスのガスケットがプッシュロッドのガイドになっているのがお分かりいただけると思います。



タ ペットクリアランスを調整します。

 ご存知のように、ガスケット、シール材などが、今のところエンジンに対してなじみが出ていません。タペットクリアランスも同様に規定値に調整をしても、 エ ンジンの状況によっては狂ってくるのは当然です。正確には数百キロ走った後での調整にゆだねるとして、ここではインレット側0.2mm、アウトレット側 1.5mmのシックネスゲージがスムースに通る状態でロックします。(ノーマンハイドの製品がほしい!)

 この後、エンジン上部のフレームとの接続バーを先に取り付けておきます。インレット側のタペットカバーを取り付けた後では下からプレートを止めるボルト が装着できません。

 タペットカバーを装着し、ロッカーアームへの潤滑オイルパイプをロッカースピンドルへ装着します。銅ワッシャーは焼きを入れるか、交換します。

 以上で全てが終了しました。その後、エキパイ・マフラーの取り付け、キャブレターの取り付け、燃料タンクの取り付けで全ての作業は完了です。時に午後3 時半でした。



エンジンの再始動
 今回はシリンダーヘッドにオイル分が若干残っている状況で作業を行っています。しかしながら初期潤滑をするかしないかでの結果は微妙なところでエンジン に影響を与えますから、まず、しっかりオイルを回しておくことをやっておきます。
 方法は、点火プラグをはずしての恐怖の空 キッ ク200回とローギア手押し200mの作業を行います。

 これを行った後で、どこからもオイルが漏れていないことを確認できれば、いよいよエンジンに火を入れます。
 ここで小休止、外気温は27℃近くですし、オイルやカーボンで汚れた手を洗います。流れる汗を拭い、乱れる呼吸を整えます。缶コーヒーとかで水分補給。
 これをやるとやらないとでは、スタティックからダイナミックにオートバイが移行するわけですから、人間様も精神的にダイナミック状態が続いていては、と ても 満 足に結果を定めることができない、と私は考えます。

 SUDCO MIKUNIでのセオリーどおり、燃料コックをONにして、チョークを引き、空キック3回。胸の高鳴りを覚えます。チョークを戻し、キーをONにして、 キックを踏み下ろし ます。
 ドロロロ〜ン。一発で目覚めました。SUDCO MIKUNIのクセで、800回転ぐらいのアイドリングで回っています。1〜2分我慢します。特に外気温が25℃以上であれば、この方法が一番いいように 思います。
 アクセルにヤヤついてくるようになると、アイドリングを1500回転程度にホールドします。右手がしんどいのはガマンガマン。
 エキパイとかシリンダーブロック近辺から煙が出てきますが、これは潤滑剤、付着したオイルなどの燃えるもの。気にしません。エンジン各部に目を凝らしま す。オイルは全く出てい ません。
 カチャカチャ、カンカンの音は、タペットクリアランスが多少多めなのと、まだ(STPトリートメントを入れた)オイルが回っていないためのこと。およそ 5分もすると、カンカン音が消えてカチャカチャ音が大 きく響いてきます。左右の吸排気のバルブが動いている証拠です。映画「Uボート」で、ハンスが預かるエンジンが回るシーンを思い出しました。
 軽くプレップしてエンジンがアクセルについてくるようになります。
 ヤッター!。ひとまず今回の分解・整備・再組み立ての成功を確認しました。時に2004年10月11日、午後4時15分のことでありました。
 近所の走りだけで終わるかどうか。アタマの中が急速に回転し、6時半からの会議までの時間割り当てを算出します。「今しか時間がない!」。お風呂(丸穂 温泉)へ行く時間までを見越して、いつ ものテス トコースを走行させることとしました。

 午後4時40分。再びエンジンを始動し、1速は比較的長めの半クラッチで走り始めます。これは、このキャブレターのクセとして、気にしないこととしてい ます。
 国道へ出るまでは、まだエンジンが堅いような感じがしますが、以前より ドスのきいた排気音、それに伴う確実な吸気音。これだけでもずいぶんと変わったと感じられました。T-140VとSUDCO MIKUNIは実際のところ、こんなものではないのか、と感じます。
 「少しキツイわよ、あなた!」と言っているような気分で回るエンジンも、国道56号線から光満(みつま)方面、務田の坂へ到達する頃には治まっていまし た。
 秋の夕陽が感じられる今、三間の道路を70km/h程度で気分よく走らせることが出来ています。エンジン自体も活き活きしているように感じます。「イイ ワ〜、あなた」とばかりに。
 青空工房での 3日間の作業が報われたような感じがしてなりません。
 ここ数年の内にはエンジンのオーバーホールが必要でしょうが、残り1週間の間にエンジンによほどのことがなければ、花園村への向けての重大な整備は終 わった、とします。



考 察
 ここで考察をするのは時期尚早かもしれませんが、極論すると、トライアンフのユニットエンジンは鋳鉄のシリンダーにアルミのヘッドですし、アルミのコン ロッドに鉄のクランプなどから、各々の材質 上、若干歪率が 違うのだろう、というエンジンフィーリングが感じられます。その上に若干のパーツ変更、悪いこと(?)に、それらが新旧双方に使えるために、同じような結 果が出るエンジンとは違うわけです。
 前回の私の失敗はプッシュロッドチューブの下側に位置するシール材とプッシュロッドチューブの新旧に取り付けを左右された結果ではなかったか、と感じる 次第です。
 仮に、10年前のシリンダーヘッド分解・整備・組み立ての時に、今回ほどの余裕と考え方の纏めなどができていれば... 、と考えるところです。あの時に新しいプッシュロッドチューブとシール材、Oリングを使用していれば、オイル漏れは無かったのかもしれません。
 しかし、実際にあの時は初めての分解、見よう見まねで行ったバルブの摺り合わせなど、我ながらよくやったものだ、と思い返します。

 もう一点の失敗はプッシュロッドチューブとシール材、Oリングは別として、シリンダーヘッドを取り付けるボルトナットの締め付けに、指定以上のトルクを かけすぎていた、とい うことにあります。むしろ、この面点を反省の第一とすべきです。
 先にも申しましたが、歪率の違いから、この影響は結構クリティカルに出てくるのではないか、と考えます。特にアウトレットのタペットクリアランスはすさ まじいものがあります。や はり、このシリンダーヘッドの取り付けには トルクレンチが必要でしょう。それに、トルクレンチを使い慣れてくると、およそ、五感での締め付けトルク感は200g程度の違いほどまでになりま す。こ の程度は許容範囲だろうと思います。
 前回は今回分解するときの感覚からすると3kg以上のトルクで締め付けを行っていた、と感じられるものがありました。その結果が、アウトレットのタペッ トクリアランスがすぐさま突いてしまう結果になって、熱が逃げない。プッシュロッドチューブの上側のOリングは熱でボ ロボロになり、切り裂かれた。その結果、オイル漏れを起こした、というものが導き出されたように感じます。

 今回は作業途中の雨天日1日が、私にシール材を通したパーツの重要性と適正を学習させてもらいました。エンジンは、これから数年間は大丈夫だろうと思い ますが、近々 30000kmを超えるに至ります。少しばかり欲を出して、エンジンのオーバーホールをショップへ依頼しようと考えるところです。




inserted by FC2 system