10 か月目の始動

はじめに
 まさに悪戦苦闘の中での始動であった。2003年4月末に燃料タンクのリペイントが終了していた。何がどのように作用して火入れが2004年の2月まで 延びてしまったのだろうか。
 まずはフロントフォーク回り。これは単にフォークレッグの交換だけに終わらなかった。このことは以前に項を起こして「フロ ントフォーク」、「ディスクプレート」で紹介したとおりである。
 それでもなお時間を必要としたのは、燃料コックの状況である。ばかげた話だが、現実に燃料コックを装着してみない限りは、キャブレターをAMALから SUDCO MIKUNIに交換している手前、簡単に判断できない。先に出したエアツールの流用から燃料コック関連にだけでも1万円近くを使ってしまっているのだ。 ディ テールまで考えると、妙に「こ れ!」という製品にブチ当たらないものである。

前書き
 結局のところ、最新鋭の燃料コックを装着することにした。理由は上下長は比較的長くなるが、収まり方が一番確実であること。
 このことによって弊害は、55mmのインシュレーターが使用できなくなる。これまでさんざん苦労して55mm長のインシュレーターの長さを決定していた のだ。
 この関連にどうカタをつけるのか?このことに数カ月を費やした。冗談でしょ?と言うこと無かれ。事実だ、といったところで、古いトライアンフのオーナー に しか解らないだろうが... 。
 次に訪れるのは晩秋から冬にかけてのこの地方独特の天候である。すでに日記にも記載しているとおりだ。いくら天気予報で「はれ時々くもり」といったとこ ろで、雨とかみぞれ混じりの天候になるのはしばしばである。2月の初旬までは最高気温が10度に満たない日が多いのだ。
 おまけに日照時間が短いし、青空工房なので職場を離れてから作業することが事実上できない。昨年(2003年)末からのこの自然の状況はいつになく厳し かった。

再始動への一歩
 2004年1月も終盤、燃料コックも慎重に取り付けた。特に燃料タンクのリペイントによってコックの取り付け部分のメスネジの塗装部分はタップを立てて おく必要がある。しかし、最近のガソリンはどうしてもタンク内に残った下塗りのサフェーサーなどを侵す。
 このことにより燃料フィルターを途中に入れなければならない。ご存知のようにアフターマーケットのものは巨大としか言い様のないモノだし、 いくら柔らかいビニールパイプとはいえ、それをこねくり回してフューエルラインを長くしては元も子もない。
 で、あれこれ悩んでいたときに、SR400の2003年モデルの燃料フィルター (4YR-24560-00)を入手したのである。これでキャブレターまでの燃料ラインは一部を除いて OKとなった。ツインキャブとしてのSUDCO MIKUNI VMキャブへの装着関連便利パーツは下記のとおり。いずれもヤマハの代理店から入手可能である。

品      名
パーツナンバー
個数
燃料フィルター
4YR-24560-00
2個
L型燃料ホース
3HT-24311-00
2個
ホース止めクリップ
90467-11044
4個

 このフィルターは使い捨てタイプだが、一方通行であることと、僕の場合だとSR同様に横置きでコンパクトに使用できるので好都合、吸入抵抗も少なく性能 自体も秀逸である。
 唯一の問題、それはブリティッシュの特徴でもある左右のコックのいずれかをリザーブとする機能が使えなくなる。ま、以前のシンチュウ製の燃料コックの時 と同じだか ら、通常走行だと、ほぼ120km走行毎に給油すれば大丈夫ということで、燃費が悪いわけではないが、左右のコックとキャブレターをクロスしてフューエル ラインを確保した。
 また、バカやって... 、とおっしゃるだろうが、SUDCO MIKUNIのキャブの燃料供給口とエアスクリウは左右とも同じ位置にあるから、右を右、左を左に入れるよりクロスした方が取り回しがすっきりするのであ る。
 空キックを50回程度行い、オイルを継ぎ足し、ギアをローに入れて200mほど押して、すべからく始動できる体制にしておいた。

次なるステップ
 全てがOKのはずだった。でも、インシュレーターのラバーホースはどうなんだ。僕のT-140Vの使い方に最も近いダートレーサーのインマニ部分を何度 となく雑誌を注視する。残念なるかな最近の傾向はインマニ部分がアルミの鋳物でずいぶんと長いものが装着され、ラバーホースの長さなんてどうでもよくなっ てきている。最低でもインマニのホースバンド〜キャブレターのホースバンドまで8mmあればいいようだ。
 カワサキのエリミネーターのインシュレーターラバーもいいが、効率云々よりも丈夫さを採らねばならない。何しろキャブレターの後ろは軽量のK& Nのエアフィルターが取り付くだけで、市販車のようにエアクリーナーボックスをキャブレターの支えに流用しているわけではない。
 そこで、僕が最初にSUDCO MIKUNIを導入しようと思った浅川トライアンフのを再度見直した。もちろん、浅川トライアンフはSUDCO MIKUNIでも34mmだし僕の32mmとは違うが、取り付けに際しては、レース本番の時はホースバンド間の隙間が0に近いのだから、絶対速いスピード を要求しない場合は浅川トライアンフの最初の状態に近づければいいのではないか、と考えたのだ。
 再始動に当たっては、このことと燃料コックの関係から50mmのインシュレーターを装着した。



インターミッション
 なぜSUDCO MIKUNIに固執するのだろうか?。みなさん解りますか?。AMALなら30mmでメインジェットは#190、対米輸出仕様には装着されていないパイ ロットジェットの穴に#25を装着し、ニードルクリップは真ん中。それでティクラーおしてオーバーフローさせてキック一発でエンジンは始動する。スクリウ は1と1/2回転戻し。よほどの寒冷地でない限りチョークは不要だ。こんな簡単なキャブ調整でOKなんだ。
 が、20000km程度走ると不調を訴え始める。T- 140Vの場合だと最大の要因はインマニがダイレクトにシリンダーヘッドに取り付けられているか ら、その熱がキャブレターに伝わって、日中35°の気温ともなる夏場ではフロート室が触れなくなるほどだ。
 もう一つは亜鉛合金のボディーに亜鉛合金のピストンだから、 ボディーもピストンも同じに減る。均一に減ればいいが、そうは問屋がおろさない。
 この二点から何とか逃れたかった。それ故のSUDCO MIKUNIである。元のチョークワイヤージョイントを利用して、タンク下に4本のワイヤーを通せばFCRの35mmを装着してもいいが、これでは車体回 りなどが追いつかない。取り回しなども難しい。タンクより大きくはみ出したキャブレターには雨の日も走るのだからフィルターは必要だ。
 それらが混在した中で、750トライアンフ用のセンターであ るSUDCO MIKUNIのVM32mmをチョイスした次第だ。

その1 いよいよ
 2004年2月14日、セント・バレンタインデーの土曜日。春一番が夜まで吹き続けた。日中は汗ばむほどの気温上昇をみた。
 午前中はPower Book 5300csの調整。お昼過ぎからは葬儀にセレモニーホールまでSRを走らせる。
 葬儀から帰って「今日が都合がいい」と決めてT-140Vにとりかかる。各部にはサビが浮いている。しかし、全体を乾燥させなければ掃除しても同じだ。 まずはエンジン始動をしなければならない。
 何もかもOKだが肝心要の燃料供給をどうするか... 。たかがガソリン10リッター持ってきて、とは言えない。そうだ、SRの燃料タンクにはレギュラーガソリンがたっぷり入っている。燃料コックをプライマ リー位置にしてポリのオイルジョッキで3リッターほどトライアンフに移す。
 T-140Vに接すると妙に古女房を相手にしているようでならない。当然英語での会話だが、阿吽の呼吸で「行きますか」、とオートバイとの間で交わされ るのだ。
 今回はマージンとってプラグはBR6ESにしたのだが... 。
 コックを開くと燃料が降りてくる。案の定、塗料カスが出てくる。チョークレバーを下げ、キーをONにして、妙に圧縮がないようなキックを踏む。3回目一 気にエンジン始動、チョークを戻してアクセルを開き目にして安定するのを待つ。重大な変化に、このときはまだ気づいていない。
 ぺったんこに張り付いているクラッチを解除するためにクラッチレバーを引いてギアをローに入れたとたんガチャッという音と同時にエンジンが止まった。

 以後エンジンは始動しない。気温はすでに15°を越えている。フリースを脱ぎ捨て、流れる汗と格闘しながらの確認と始動だ。プラグを見ると生ガスでビ ショビショだ。「まさかボイヤーのトランジスタ点火のアンプが昇天?」と思ったが、回ったのは回ったんだ。圧縮も少しずつ増えてきたようだし、ダイナコイ ルで同時点火だから火花の出方が独特、日中では確認がしづらい。
 トランジスタ点火で大きい電流が一瞬でも流れた場合は、6番プラグが昇天したのかもしれない。でも、おかしいな。
 まさか、と思ってアクセルワイヤーを引くとカタカタとディレーがかかったようにキャブのピストンが戻る。「おいおい、しばらく動かしていないのでワイ ヤー内のオイルが堅くなっているのか... 。」
 WD-40を軽くスプレーする。オーオー、軽くプレップできるようになった。バカにすんじゃねー。と英語で言ったところで始まらない。
 使い慣れているし、一番使用率の高いBR7ESに換装。エンジンはなま暖かいため、このまま再始動を試みる。僕のT-140Vはキックリターンスプリ ングの関係から、少し踏み込んだ位置からエンジンが始動し始める。このコツを飲み込めば最初でも3回ぐらいでエンジンは始動する。
 キーをONにしてエンジン始動、大成功。無意識のうちに2000rpm付近で右手を止めている。およそ1分間。これまた無意識のうちにプレップしてい る。およそ5分。この手のオートバイは現在のウォーミングアップ方法は適さない。どうしてもこの方法を採らざるを得ないのだ。

 本当に走ってみるか?。エンジンを止め自問自答する間もなく2階の部屋へ戻ってフリースを着て、ヘルメットとグローブを手にして、再びエンジン始動。
 ストールをするとヤバイから裏通りを走ってから国道へ出て高光までのルートを採る。こんなに興奮するとは我ながら笑ってしまう。
 国道へ出ると若干のガサゴソを残しながら太いトルクとグワーっとくる回転でカーブを立ち上がっていく。「おー、これだ」。わずか数キロしか走っていない のに心は有頂 天。知らない間に一般道にも関わらず70kmから80km/hの速度で走っている。SRの速さとは異質のものだ。トライアンフが持つ媚薬というか魔力のよ うなものだ。
 ところが、突然揺するような振動がやってくる。一瞬にして興ざめ。オイオイ、おかしい... 。アッ、レギュラーガソリンだったんだ。高光駅から引き返してハイオク補給。
 再始動も簡単、再度同じ道に入る。さっきよりも抜群にスムースだ。バカげているようだけど本当だ。でも乗ってる奴じゃないと解らない世界だろうな。
 というところで、本日のテストを終える。
 丸穂温泉で疲れを取った後、H女史の一時帰国を前にして肴屋で一杯やった。

その2

2004年2月15日(日)
 昨日の余韻が消え去らないまま一夜が過ぎた。ちょっと分析しなけりゃ... 。まずはキャブレターだ。
 今のところ、アクセルをすこし早めに開けたとき、一瞬のタイムラグがある。アクセルワークが難しいほどではないがメインジェットを#10ないし#5上げ た方がいいのかもしれない。
 もう一点はインシュレーターラバーだ。昨日、「大変化をこの時はまだ気づいていなかった」としたのは、50mm長に換装して始動後のストールが少なく なっていたことだ。この確認を第一に行った。昨日より気温が若干低いが、天候もいいので影響は少ないだろう。
 思い出したが、メインジェットは#285というのが無い。そのため#290にしてトライすることとする。
 もう慣れっこになっているし、始動も簡単。いつものテストコースへ入れる。車体回りが相当に汚い。リプレースするパーツも掃除道具もあるから、一定こと をやって確認を取るのが先決だ。大本神社近辺でメインジェット交換してもいいから、数種もって出かけることにする。
 出発してすぐさまの変化に気付く。ババババババッという気分とダダダダダダッという感覚とが各ギア毎にやってくる。#280の時とは全く違う力強さが加 わる。こんなに変化するんだ。少しばかり唖然としてライディングしていた。この感覚はどこまでも続き、そのまま帰宅した。
 プラグを覗くと、わずかに燻っている。碍子回りが少し黒いから、パイロットを下げるべきかな、とも考えたのだが... 。

2004年2月17日(火)
 16日は退職金の件で交渉があり、おまけに交通違反の処分のニュースを見たし、とてもじゃないが、オートバイにさわるなどという状態ではなかった。もち ろん、各ジェット類のことは頭の中に大きく入り込んでいたことは確かだった。
 17日は昼前から曇りだしたが、15日の状況によく似てきだした。急遽時間休暇を取得する。そう、今日しかない。これを逃すと、車検前の期間は一切触れ なくなるし、車検自体も受けられなくなる。そう判断してのことだ。
 午後3時過ぎ、早速取りかかるのだが、帰宅途中、永井モータースのK君にこれまでの状況を話して、パイロットを下げたい旨告げて応えを待ったが、意外な 言葉が返ってきた。
 「それは逆、メインジェットを#280に戻して、パイロットジェットを#35に上げること。そうすれば下から上までキャブレター全体が上手く機能するよ うになる」というご意見であった。そう言われればそうかもしれない。この方法を採ってみよう。

 左右のキャブのジェット交換も20分で出来るようになった。チョークを引いてエンジン始動... 、またミス。何てこった。でも待てよ。AMALの時もそうだったように、チョークを引いてキックを踏んだ後、チョークを戻してエンジンを始動すべきではな いか、と思ったが、これは後日確認だ。
 キック5階。始動する。オヤ〜、何かおかしい。900rpmぐらいで回っている。そのまま止める様子もない。むしろ180°クランクのような回り方をし ている。どうなっているんだろうな、と思いつつ、ライディングを開始。コースは三間から広見を通るいつものコースだ。
 走り出して、いきなり異変に気付く。何だこれは?。全く申し分ない走り方をする。スロットルにも敏感だし、そう、VM34を装着したXT500の走り方 のような力強さを感じると同時に、発進時の半クラッチ操作も、各ギアでのシフトポイントも確実に決まりだした。はっきり言うとAMALの時よりももっとい い状態になって来だした。
 少々興奮気味でコースを走り終えた。もう、プラグがどうなっているかなど、一切確認もしない。後は、エアフィルターを筒状のものに交換することと、それ によって、キャブレターのスクリウ調整でOKになるはずである。

 本当に素晴らしい結果で10か月目の再始動を終えた。実は新たな問題が待っていたのである。

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