遊歩人のこと
 もう何年前になるか定かではないが、モノマガジンにこの遊歩人なるモノが紹介され ていた。折しもソニーのウォークマンが爆発的人気を得ようとする当時のことであった。しかし、それが出ていたモノマガジンが少々古い号だったので、探せど 探せど実物にお目にかからない。当の遊歩人すら色々機能が付いていた頃だったし、オリジナルの遊歩人そのものを探し出すこと自体が非常に困難であった。
 記憶の断片として頭の中に入れておくと、時として突然目の前にそれが現れることもあるのだが、その時はついぞ血眼に なって探していた。
 ここまで書いてお分かりのとおり、遊歩人とは商品ネームでれっきとした過般型のカセットテープ再生マシンである。
 そもそも、僕はこういったコンパクトなモノはあまり好きではない。ウォークマンが発売された当時でさえ、どうも気分が 向かなかった。それ以後爆発的に売れて、どこでもかしこでもイヤースピーカーで音楽(が主だろう)を楽しむ姿が見受けられたものであった。松山へのJR予 讃線の車中でも当時は相当数見受けられたものだ。
 その当時のことだし、カセットテープの廉価販売店が市内恵美須町商店街にあって、そこがそろそろ店終いになるってこと を知った。すでに大型スーパーなどでもカセットとかVTRカセットが廉価で売られるようになり、一般小売り店では太刀打ちできなくなった頃だ。ましてや、 CDが一般化すると、カセットテープもあまりにテープ材質と特性、それに録音時間の種類数などがものすごく多くなり、その都度どのテープを在庫するかな ど、販売側も選定に大変な労力を要するようになっていた。
 店終いになる少し前、どこに隠れていたのかしら黄色の遊歩人を見つけ、あわてて購入した。購入したというより、購入で きた、といったほうが正しい。それほど回りには改良型の遊歩人2があって、同じ展示(紙の台紙にエンビの透明)ホルダーの中に1〜2個の遊歩人が入れられ ていたぐらいだから、状況はお分かりと思う。よくぞ見つけた、と思われるし、店員さんも僕に「どうして新しい方にしないで古い方を選ぶのか?」という怪訝 な顔を向けた。
 購入してすぐさま、附属のボタンスピーカーのイヤーパッドが壊れた。主に風化でウレタンがボロボロになったのだが、急 遽ソニー製品に変更し、音の違いにびっくり。併せて遊歩人がどうしてモノマガジンに出たか分かった次第。その素性と音の良さに仰天してしまったのだから。
 ただし、シンプル・イズ・ベストとは遊歩人には当てはまらない。理由は次のとおり。

まずは操作から... 。

1.単三バッテリーを2本入れる
2.イヤースピーカーをセットする
3..カセットテープを装着する
4.スイッチを入れ、再生する
5.スイッチを切って終了する

 これだけのことだがA面が終わればカセットを入れ替えしてB面を再生する。もうお気づきのことであろう、巻き戻 し、早送りの装置は一切施されていないのである。
 ひねくれ者の僕としては、これは音質重視のためとコスト削減のため、といい方に理解しているが、世の中の多くはこの不 便さは受け入れなかったのだろう。
 幸い、僕はハンドワインダー、つまり手動の巻取り機を持っていたから、この巻き戻し、早送りに対しては心配はなかっ た。

 遊歩人の構造は非常に簡素で分解も簡単だ。何しろ、ケースにあるノッチをマイナスドライバーの先でちょっと押し込んで 開けると小さいスライドスイッチの付いたアンプ基板とテープリールを回す大きいプーリー、そしてモーターがあるだけだ。スイッチが入るとモーターに付いて いる小さいプーリーがゴムベルトを介して大きいプーリーとキャプスタンを回す。という次第だ。安全装置として、カセットテープを入れなければスイッチを入 れても作動しないようになっている。
 ケースは二種類のプラスチック製。筐体自体は堅牢でカセットを受ける部分は少し柔軟性があり、ノッチの部分はエポキシ の接着剤で補強可能だ。僕はそうしてる。

 話は変わって、現在では既にウォークマンも数が少なくなっている。丈夫さのあまり小さいくせに重くなってしまっ たし、大半はMDにとって替わられてしまった。あれほど盛んにテープの材質、磁性体の種類、ハーフの材質など相当に研究されていたカセットテープがアッと いう間にスタンダードテープしか巷になくなってしまっている。その数も数える程度だ。
 VHSのカセットは以前の高性能クラスが一般になってしまっているし、テープそのものの技術はすさまじい進歩なのだ が、もはやカセットデッキなどが入り込む余地は今のディジタル面が幅を利かせているから無いのであろう。しかも遊歩人のような廉価版のハンディータイプカ セットプレーヤーはおそらく二度と出ないであろう。
 が、このキカイは僕の持っているもう一つのエキセントリックなサウンドバーガーと同様に。今でも結構使っている。仮に FMのエアチェックテープなどを聞くと、どことなく落ちつくのである。ノイズリダクションを掛けたものは高域が少しきつくなるが、そこそこ再生する。見事 と思うと同時に不思議な世界を感じる。
 MP3の規格などが統一されているし、アナログ面で今後は表面上の伸展はしないはずだ。が、僕はまだまだこういった機 器類はDAコンバーターの研究でも分かるとおり、アナログが消えない限り、メーカーにはハンディキャップだろうけど、製品数、生産量は少しでもいいし、コ ストが上がってもいいから、アナログのいい面は残すべきだ、と考えているところだ。
 そういった中で僕の考えるのは、こういった世の中にあって、もっと真にアナログの良さが多くの人に分かって来始めるの ではないか、とも感じているのである。アナログ、ディジタルの論争は抜きにして、いい音楽を再生装置を通して総ての面で自然に聞こえる状態にする努力は必 要である、とする中、自然に限定するとアナログにも一理ある、と僕は考える。

 話は違うが、2002年 8月27日付の愛媛新聞紙上にDTMの音楽づくりに対して警鐘を鳴らしているような記事を目にした。内容は、真に音楽云々は楽器と楽譜を使用して創るもの だ。それをコンピューターで操作するのはいい。が、最近では音源からコンピューターで創られる。このことは、音楽そのものが継ぎ接ぎだらけで軽薄なものだ し、自然でない、というものであった。
 僕もそう思うし、テレビ画面でもしばしば声とバックバンドが一致しない光景を見ている。そして、その記事の囲みの中に エイティ・エイトというバンドのジャズのディスク紹介が3種類写真で紹介されていた。一つはCD、一つは高音質CD、それに30cmアナログLPディスク だ。音楽再生メディアもこの程度までやらないとダメなのだろう、と感じた。

 まだまだ不思議な点はいっぱいある。一番簡単で安上がりな方法で確認が取れるのは、もし単三バッテリー装着の ウォークマンタイプをお持ちなら、バッテリーをアルカリ・マンガンちかリチウム・マンガンからナショナルの黒いネオハイトップバッテリーに交換されると音 が良くなる。どういった理由かは定かでないが、おそらく大半の方が確認できるはずだ。この変化が分からないような耳ではまだオーディオ云々を言うことが出 来ないだろうな。(2002年 8月のある日)

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