再びキャブレターの確認

 前回は点火プラグのことと、それから派生した点火コイルに関して多くの報告を行ってきた。わずか冬の4日間のことであったが、その間の気温、湿度の状況は詳しく延べなかった。そのためかしら、点火系にばかり目が向いてしまって、スプリットファイアーがベストマッチ、という結論に達したことと、キャブレターの状況が本当にフィットしていたのか、という新しい疑問が起こってきて、再び検証を行うことになってきた。

 前回までのセッティング関係のまとめとしては次のとおりとなる。
1. 点火コイルはノーマルのもの
2. プラグはスプリットファイアSF426-C
3. プラグコードは
・FUJIKURA電線-NGKジョイント-YAZAKI電線
・コードはいずれもごく普通のハイテンションコード
・プラグキャップはノーマル(ほぼ10KΩ)
・電極のギャップは約0.8mm

続いて気象条件である。
2002.12.30 はれ・気温8.1℃(10時現在)
2002.12.31 くもり・気温8.7℃(10時現在)
2003.  1.  1 くもり一時はれ・8.3℃(10時現在)
2003.  1.  2 はれ・8.0℃(10時現在)

 このことから、年末年始のテストは相当にシビアな環境の元であったと思う。その結果、デンソープラグの焼け具合で見受けられたことを元に、考えついたのはキャブレターである。ニア・ノーマルのSR500でこういった状態だから、リプレースされたマフラー、キャブレターでそこそこのセッティングを出すのは容易なことではない、と改めて気づいたところだし、またか、と思われるのは解っていながら、あちらを立てれば、こちらが立たず、である。両方をやると、僕がやったようにかなり難しい場面に直面する。
 それでは今までが何だったのか、となってしまうが、こればかりはエンジンを主とした総合性能からすれば、吸排気系を逐次フィットさせることが必要なのだから、致し方ないこととして享受願いたい。

これまでに得られたもの
 僕自身、これまで相当にこのBST34の純正キャブレターをさわってきたが、ミクニのフラットスライドピストンを持つ負圧キャブ自体は想像以上に敏感に反応するようなので、これでいい、というフィーリング主体で得た結果より他に、目に見えない調整不足が考えられることがあるようだ。
 つまり、ダイアフラム制御スプリング圧を下げることによるレスポンスの向上は体感できたし、このスプリング長も個人的には「OK」のところまでになっている。
 このBSTでの最大の欠点は、スライドピストンの材質ではないか、と最近になって感じ始めた。もし、この部分が合成樹脂だったら、と感じるのだ。
 純正BSTではこの部分が非鉄の合金だ。おまけにピストンガイドと材質の関係からか、ガタが出やすい。この部分はベアリング効果が得られる金属なのかどうか不明だが、20000km走行時ぐらいからを境にして、ピストンにキズが見受けられる場合がある。それに、スライドピストンが非鉄金属にしてあるのは、最初からレスポンスを悪くして、乗り易さと始動性の向上を狙ったためではなかった、とも考えるし、片側だけに負圧取り入れ用の穴が開けられているのは、SRの吸入の仕組みを考えてのことかもしれない。
 また、ダイノジェットのキットでもお分かりのように、フラットピストンタイプのCVキャブを対象にしたステージ別のアップグレードは少ない。ハーレーのスポーツスターはケーヒンのCVタイプだが、円筒形のスライドピストンだからスプリングの直径が大きく取れるし、ターン数も変化させやすいため、ステージをアップすることができるのだろう。
 想像だが、2001年以後のSR400へ装着されているミクニの33mm径のキャブが円筒形のスライドピストンに変更されているのは、メーカーではレスポンスの向上と言っているが、その裏には僕のこの考え(手を入れた結果の敏感さを無くすること)が当てはまるのではないだろうか。

前回の走行結果から
 簡単に言うとポッシュの#165のメインジェットでは、下から上までよどみなく回る。しかし、前回のプラグの状況でも記したように、若干の走行フィーリングからプラグの種類が限定される。
 デンソープラグの焼け方がNGKよりも白っぽくなる、という固有のものがあるかもしれないが、燃焼室内で混合気が一部燃えづらいところが出ることを含め、どうも火炎の伝播がうまく行っていないようだ、という結果が出る。
 もちろん、このことは点火系総てに対して言えることではあるが、点火コイルをノーマルに戻してでも同様の焼け具合だから、点火プラグ云々ではなく、再びキャブレターに注目してみたわけである。
 
対 策

 これは簡単なことだ。ニードルジェットをセローの2000年対策モデル(ミクニ5D87)のものに変更すればいい。
 仮にスプリングも元に戻し、メインジェットを#165とした場合は、ノーマルのニードルジェット(ミクニ5F81)では、そのテーパーが緩やかな二段構成で、先端部が細くなっているようなので、低速時から中速時(少ないアクセル開度)にはスライドピストンの敏感さ以上に燃料が上がってくることが予想される。
 現状では負圧の取り出し穴は変更していないため、ノーマル状態で感じられる何というか、モゾモゾした回転上昇(キャブのレスポンス)を逆手にとってスムースな回転上昇に導くことだ。それに純然たるスライドピストン上昇の変化(レスポンス)を向上させるためにスプリングを加工したこと、この二つの相乗効果によって、ほぼアクセル(バタフライ)開度によって、ノズルに沿ってメインジェットから均等に燃料が送り込まれるようにすればいい、という考え方だ。
 寸胴型で先端の角度がきつい環境対策セローのニードルジェットに置き換えようとした理由である。

 だが、待てよ。
 現在はPOSHの#165のメインジェットでの結果からの考え方である。ジェットニードルを換えたことによって、逆にメインジェットとのマッチング、そしてノズルの形状で中速域が大きく左右されるのではないか。
 仮にニードルジェットとメインジェットの2種類の組み合わせをやると、これまでと同様に次々と結果が変わることが予想される。
 スプリングの改造を終え、燃料供給をわずかに上げてやる目的でPOSHの#165がいいのではないか思って装着して得られた結果だから、この際、単純にメインジェットのみを元に戻してテストしてからの方がいい、と判断し、この実験は中断した。

[2003.01.12の走行テスト]
 午前中にいつもどおり、タンクをはずしてキャブレターを左にひねってメインジェットを交換するのだが、フロート室の下側にメインジェット交換用のドレンがあれば... 、といつも感じる。慣れれば20分だが、この作業だけで「またか...」と嫌になることが多い。
 一連の作業を終えてエンジンを始動。その時点から「ヤバイ」、と感じてしまう。最初にこのSR500に乗り始めた時のフィーリングに非常に近いものを感じたからだ。このフィーリングからすると、今までの結果を基にしての考え方での結果が出せない。何とかしなくては、と一生懸命になって走る。
 気持ちの中には何とかアラを探し出して、それをエサにしてテストして... 、ということが芽生える。何と愚かなことだ。こんなことを考えながらの走行を終えた。エンジンを止めたとき、気づいたことがあった。
 それは、「今オートバイから降りた」という気持ちだ。これまでなら「もういい」か「このまま乗っていたい」だったのに... 。

考 察

メインジェットの形状違いから
 上記の結果を得たから、ここで、ミクニとポッシュのメインジェットの形状の違いを下記のように報告したい。

 まず、ミクニから略断面を見ていただくとお分かりのとおり、マイナスドライバーで取り付ける溝の位置から外周に入った切り込み線のところまでがロート状になっている。
 そこから取り付けネジ部分の上から2段目辺りまでがメインジェットの番手の穴で、そこから上まで再びロート状に広がって、以後そのままの広さで垂直に立ち上がる。


 それに対して、ポッシュのはマイナスドライバーで取り付ける溝の位置から外周に入った切り込み線のところまでが垂直に立ち上がる。
 そこから外周の太い部分の終わりのところまでロート状になって番手の穴に導かれる。この番手の穴はネジの部分までで、ネジの始まるところから一気に広がって垂直に立ち上がる。

 このことから解るように、ミクニではメインジェットから一気に吸い上げられた燃料はニードルの上昇とともにノズル内でバ〜っと広がるようにしているようだし、一方のポッシュでは最初からその番手の穴で吸い上げ、ノズル内で一気に放出するようにしてあるようだ。

 振り返ってみれば、セローはどちらかというとロードにもオフロードにも使用できるオールマイティーなオートバイであり、使いやすいように負圧キャブを装着しているのではないか。長期に渡ってSRと同じBSTのキャブレターを使用していた。
 同じような性格のエンジンではあるが、TWには元気さを求めて、TK(テイケイ)のキャブが使用されている、と考えるのである。
 SRはXT500を母に持つものではあるが、エンジン性格はもとより、多くのものがロードバイクに仕様変更されている。それにはやはり、ロードバイク然としたものでなければならない。
 独断と偏見だが、このことからメインジェットを純正ミクニの#162.5に戻したことは正解だったのかもしれない。

次なる課題
 キャブレターの一件が済んで「天の邪鬼」ついでにおもしろいプラグを取り付けた。それは中心電極が碍子にシールドされたBOSCHのプラチナ電極のプラグだ。メーカーではエアギャップ1mmと謳っている。
 このプラグがなかなかいい。怪しいほどに碍子部分が白い。決してガラス質の状態にはならない。が、どうもオートバイに対しては熱価が少し低いかな、と感じられる。今後の実験課題としたい。
 同じようにNGKのBPR6EVXをテストする。スタンダードのBR7EVXではなかなかいい結果を示すのだが、前回のテストで報告したとおり、どうしてもこいつは結果がよくない。
 一説によると、奥まった(?)というL字電極のタイプをリプレースすると、点火時期が狂う、と言われる。極論すると、スタンダードのタイプはレーシングプラグと同じで、点火時期が遅らされる。そのために1番熱価の上がったBR7EVXが良好な焼け具合を示すのではないだろうか。
 結局デンソーのプラグに落ちついて、レギュラーガソリンを給油して走行テストを40km程度こなす。美辞麗句で就職する必要などない。本当になかなかいいのだが、少し不満が残る。それが何であるか?、SR500のオーナーなら感じておられるだろうが、5速で2300回転付近で起きる500特有のシャクリのようなものがどうしても出る。
 どうも、この点でプラグ側に施しのあるものは、L字電極ばかりではなく、中心電極の形状に注視する必要があるのではないか、と感じた。それ以上のものがあるのではないか、と再び感じ始めたのはこのときである。

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