クラッチレリーズの改造

 SRのクラッチアジャスターのピボット部分、ちょうどクラッチワイヤーが取り付く部分だ。名前をアクスル・プッシュレバーと呼ぶ。そのレバーになったところの中心部分がシャフトになっている。このシャフトとレバーは強固に溶接されており、通常では、クラッチアジャスターピボット部分の編芯ボルトとレバーの部分で遊びを調整すれば事足りる、ということになるハズなのだが、僕のSRだけかもしれないが、そう簡単に調整ができないのである。

 その仕組みを簡単に言うと、通常取り付けた状態では、まず、クラッチレバーを引くと、アクスル・プッシュレバーのカムレバーが手前に引かれる。同時にアクスル部分が回転することによって、クランクケース内部で平らになった部分がプッシュロッドを押して、クラッチが切れる、という仕組みだ。

 よく指摘されることにSRのクラッチは重い、ということが上げられる。嫌になるほどのスプリングレートではないため、クラッチレバーの引きが通常のオートバイより重い、と感じるものだろう、と想像していた。それに加えて異常にワイヤーの伸びが早く、特にメインスイッチ部分をトップブリッジと一体化したモデルからはワイヤーの取り回しが極端になって、ハンドルバーの形状からは少しばかり苦しい状況になるのではないか、と感じてもいた。
 400でも、このことはある程度合致していたが、僕のに比べるとずいぶんとクラッチレバーの操作ストロークが大きい。レバー側のアジャスターはずいぶんと伸びるが、それでもストロークが多いことはクラッチミートも「この辺りで... 」と、ずいぶんと楽になると想像していた。
 それならどこに問題があるのか?。ずいぶんと悩んだが、どうやら、アクスル(シャフト)とカムレバーの取り付け精度に問題があるのではないか、という結論に達した。

 その前にアクスル・プッシュレバーのパーツナンバーを当たると、583が頭に来るから、XT-500のものと全く同じ状態で現在でも使われている、ということになる。クラッチ、フリクションプレート、スプリングなどの確認は取っていないが、それでもXT-500のパーツが主要部分にいまだに使われていること自体が驚異ではないか、とも感じられた。逆に、SRというロードモデルにふさわしいクラッチハウジングなどになっているのだから、このクラッチレリーズの機構などは見直して然るべき、とも考えられる。2001年モデルからは変更があるかもしれないが、ここの確認は取っていない。

 オートショップワタナベでオイル交換の時、ご主人が「このクラッチは重いワイ」というので「最初からだ」と返答すると、彼のご子息の乗るYZに取り付けられたマグラの油圧クラッチを見せてくれた。「ホー、これはなかなかのもの、もしかして長さがフィットして、ピボット部分のサポートが何とかなれば取り付けが出来る」と感じた。
 とにかく、現状で何とかするには、という問題に対処するのは、ワイヤーを引く角度を変えればいい、という。そうすれば、ストロークが増えるのでOKではないか、というものであった。

 が、ことはそんなにうまく運ばない。まずSRのカムレバー部分はストレートでなく、段をつけて折り曲げられている。このことが補強も兼ね ているのは言うまでもない。したがって、その部分をカットして継ぎ足しの鉄板を当てて再溶接はできない。考えに考えた挙げ句、失敗の場合はもう一本購入するとして、まずは、シャフトの外周上で約3mmほど後方へずらして溶接をすることとした。カムの部分は約1cmから1.5cm後方へ移行させよう、というものだ。
 ということで、2001年 6月16日、溶接部分をグラインダーで削り取った。

 ここで本音を言うとこのシャフトが高価(何と5,800円!)なのだ。できれば、XJR400のようにスプラインを切って、セレーション一齣ずつぐらいの調整代を設けてもいいように思うが、そうなるとクラッチのシャフトを押す方式も変更しないとならない。この面の開発コストがまた必要だ。特に旧モデルからの移行も出来るようにしなければならない。基本を変えずに形状変更は出来ないのであろう。今のところはヤマハの方でもこの部分は触っていないようだ。もう一点は改造後に気付いたことで後回し。
 代わりに、2001年モデルのSR400では、ハンドルが若干アップになり、トップブリッジの形状変更、ステアリングシャフトの取り付け強化になり、フレームのダウンチューブへワイヤーホールドも加えられたから、ある程度はクリアーできているのではないだろうか。ワイヤー自体は1999年のフォワードステップモデルになったときから変更されている。

 翌日(17日)、二日酔いの頭の痛い中、組ヤスリを駆使して、新たに取り付ける位置までのレバーとシャフトをスムースにした。かなり時間と根気のいる作業であったが、最終は金槌でたたき込んで位置合わせ、再びはずしてプライヤーで表面修正し、工具なしでその3mmずらした位置に手を添えなくてもホールドできるようにした。ここまでに3時間かかっている。作業を行いながら、ずいぶんと遠視の傾向が強くなって、間もなく拡大グラスの必要があるのであろうな、と感じた。大半の作業はこの段階で終了する。
 18日の月曜日、物心両面(?)で疲れ切っているが笹川鉄工所へ仕事の合間を見つけて溶接を依頼する。アクスル(シャフト)とカムレバーに入れたケガキ線を一致させて、アクスル(シャフト)から見とカムレバーが直角に、カムレバー自体も水平になるよう溶接をお願いした。溶接部分は盛り上げて結構です、とも伝えた。昼前に受け取りに行く。工賃1000円。いつもの金額だ。仕上げはバッチリ。溶接部分の盛り上がりは削り取ってあった。途中、永井モータースでシルバーのスプレーを吹いてOKとした。

 帰宅してSRに装着。今回はXT-500の時のクラッチカムレバーの調整方法を採用した。つまり、クランクケースの接合部分にあるボッチまでフリーになったカムレバーを持ってきて、クランクケース横の編芯アジャストボルトを固定する、という方法だ。アウターワイヤー調節の厚手のワッシャーははずした。調整代は十分とれる。
 が、ウォ〜ットもう少しのところでクランクケース接合のボルトにカムレバーのプル部分が干渉する。すんでの所だった。3mmというのは作動ポイントとクラッチワイヤー調整、上手く行けば引きが軽くなるための妥協点としての位置だから、こういった改造は現物持ち込みでやるべきだな、と改めて感じた次第。
 また、クランクケース取り付けボルトに干渉するようなことから、ヤマハがいまだにここを改良しないのかもしれない、と思った。

 早速走ってみる。今までの苦しかったクラッチ操作が嘘のようだ。ストロークは若干大きいし比較的粘りのある強さが続く。けれども急に繋がるような傾向はなくなった。時として起きるが、しばらく乗ってやると消えるであろう。1速からでもほとんど半クラッチの操作がしづらかったのだから。現状ではこの辺りがアマチュアとしての妥協点だろう。
 しばらく走ると当然のように作動ポイントが狂ってくる。ダイシンの乾式クラッチでは、クラッチ側のコントロールプレートにも6mmのギャップ調整ボルトがある。しばらく走行して落ち着くと、こちらの調整を行って、再びメインクラッチのワイヤー調整で遊びを取らなくてはならない。その他は、急激に繋がる傾向が強かったものが徐々に無くなりつつある。これがなくなった時に調整を行えばいいとしよう。

 こうなると、マグラのセミ油圧クラッチが断然クローズアップされるな。比較的リーズナブルな金額だから、取り付けてみたい、と思うこのごろである。何しろデコンプレバーも付いているのだから、俄然色めき立ってしまうのである。

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