インレットマニホールドの謎
 あれから数週間が過ぎた。少しばかり仰々しいお題目にしてしまったが、実は何でもないことなんだ。
 キャブレターでミクスチャー(混合)された燃料と空気はシリンダーヘッドの燃焼室に送り込まれる。その後の行程はエンジンの種類によるが、最近の自動車はキャブレターの代わりに電子制御のコントローラーが混合気を送り込むようになってきた。バイクの場合はいまだにキャブレター(気化器)に頼っているものが多い。そのかわり、一般用にもレースでのノウハウがフィードバックされた、すぐれた性能のキャブレター(正確にはカービュレイターだろうけど)が誕生している。
 ところで、キャブからシリンダーヘッドまでの距離(長さ)はどの程度のものが必要なんだろうか。一般にこの長さの概要は報告されていないようだ。僕自身も「まさか?!」と思うことを最近経験するまでは、な〜んとも感じなかったし、バイク関係の専門雑誌にもこのことは報告されていないように感じている。もっとも、シリンダーヘッドをオリジナルのものに交換しないままのチューニング、セッティングが一般に行われていることだからかもしれない。

 そこで、以前からイマイチ(初期作動の緩慢さ)のところで悩んでいたトライアンフT-140Vに装着したSUDCO MIKUNIのセッティングを見直してみた。

 これでいい感じであった。が、エンジン始動後の初期作動が心許ない。ここは何かまちがったことをやっているのではないか、と感じ始めた。購入もとのサイドバルブに電話をしても、こちらの状況を説明するのだが、何とも怪訝な感じでの返答しか返らない。コベントリーの清水さんに問い合わせても同じだった。
 OZハウスの小関さんに伺った内容は先に報告した。

 とりあえず全体を見て、点火系から開始する。ボイヤーのトランジスタ点火に変更し、プラグキャップはNGKの抵抗入りにしているので、最終のハイテンションコードをテイラーのシリコンコードに交換する。プラグからの火花がすさまじい。始動性も良好となるも、相変わらず初期作動はエンジンストールだ。すごくクラッチの操作とアクセレーションに気を使う。これでは一般道では使用できないものになってくる。ストックで装着のAMALのキャブでは向こう数年間キャブレターの性能維持の見通しができないから、SUDCO MIKUNIに交換した、という目標を見失ってしまいそうだ。

 何気なく購入したストリートバイカー誌2000年3月号にSUDCO MIKUNIを装着したダートラが数種出ていた。これほどの使用率なんだから、キャブレターが悪いはずはない。しげしげと写真を見回してみて、「あれ、どれもインマニが2inch(5cm)以上のものがほとんどを占めているではないか」ということに気付いた。国産のXS650のレーサーもそうやってある。ひどいものになると15cmというものまでトライアンフには見受けられた。
 「ひょっとして、僕の場合はインマニが短いんじゃないだろうか?」と考え始めた。ダートトラックレーサーのように全開でストレート、閉じてコーナーの入り口、それに中速域でのコーナリング、出口からの全開と、それにピックアップの良さが必要などが、ロードバイクのストリート走行での使用状況に少しばかり似通っているのではないだろうか、と思われたのだ。

 話は少しそれるが、それならインマニが短いように感じるSRはどうだろうか。おかしいことだが、年式によってはキャブレター周りが違う。もちろん、キャブがVMとSUの違いはあるが、インマニ部分が何となく違うのだ。
 僕の持っているSR500は、ぎりぎりのところでキャブのヘッドがフレームのパイプに当たらない状態だ。何度修正しても、このポジションは変化ない。
 が、400は多くの場合数ミリ隙間ができる。この感じは実車でしか分からないが、僕の観察では確実にそうなっている。何しろ同年式のストックSR500はアゼモト鞄店のご主人の愛車だから、比較は簡単なんだ。
 シリンダーヘッドの形状まで変更させて、わずか(でないかもしれない)100ccの差はエンジン内部のパーツ以外にも存在していたわけだ。
 そして、実際のところSRのインマニ長は500で65mm以上ある。大半はシリンダーヘッドバレル(フィン)に隠れているが、ダイカストのパイプ状になった通路が存在している。ディトナのビッグヘッドはこのカーブがストレートになっているわけだろうし、この長さもプリセッティングされているはずだ。もしかして、BSA SRもシリンダーヘッドは違うものが装着してあるのかもしれない。エンジンを直立させるとキャブレターが尻下がりになる角度だからだ。
 これはどうもフレームが変更になっているようで、やや前傾させて取り付けが行われているか、フロントフォークなどのアライメントの変更があったようだ。昔からいわれていることだが、直立エンジンは後傾して見えることに由来するかもしれない。ディトナのカタログを書店で見られるとお分かりになる。

 話を戻して、トライアンフは次のようにセットして実験した。

 結果はすさまじかった。何というか、購入時のフィーリングに戻った。少しドロドロ感が強くて、その上にAMALの時よりスムースだ。若干ウォーミングアップの時間が長い。
 ここまでくるのに半年以上かかっている。幸い、意識の中によりよいものにしたい、という考えが残っていたからだろうけど、これまでの実験で大切なものを得たように思う。それは、SUDCO MIKUNIのストック状態のキャブを取り付けるときの注意点だ。
 以下のようにまとめた。

1.ストック状態で取り付けてみること。
2.シリンダーヘッドのアダプター取り付けボルトの頭までインシュレーターラバーを挿入すること。
3.良質のホースバンドに変更すること。
4.パイロットジェットはストックのものを優先すること。
5.付属の丸型エアフィルターを装着すること。
6.以下、プラグのヤケ具合で、メインジェットを交換してみること。

 おそらく、こういったことで、ある程度の煮詰めが出来るのではないか、と思っている。
 なお、インシュレーターチューブの装着上、アダプターをカットする場合は端から2段目までとされるよう願いたい。
 リプレースのチューブは内径が38mmのものが好適である。

 OZハウスの小関さんに結果を報告する。逆のお礼と、またまた情報を提供いただいた。
 それは、最近のキャブレターの傾向は混合気のうちでも、燃料の細分化が進んでいて、空気との混ざり具合が旧式のキャブレターの比ではない、というものであった。そのため、今回のように古い形式のキャブではインシュレーターラバーを長く、つまり、インレットマニホールドを長くして、表現はおかしいが、燃料の粒の大きさが最近のキャブより大きいから混合気を安定(霧化現象を促進)させてから燃焼室に送り込む必要があるのだ、ということであった。
 
 燃焼室内は一般に見ることが出来ないし、霧化の状況も同様だろう。ま、半年以上勉強させてもらったことは、いい経験であった。
 この状態で車検を受け、動向を確認したい。



後日談
 幸い車検切れまでに間に合った。依頼した内田自転車商会のMS君がライディングして車検場まで出向いた折、「スタートは3000ぐらいまで回転上げて、半クラッチをちょっと使う必要がある」と言って、「昔風の乗り方をすっかり忘れてしまっている」と頭をかいていた。
 僕には何ともないことに感じているのだが、普段から乗り慣れていない人には難しいことなのだろう。それ以上に、最近のバイクの進歩がすさまじいのかもしれない。そういえば、TZ250の市販ロードレーサーも最近は誰でも乗れるようになってきたのだから。
 とにかく、T-140VとSUDCO MIKUNIは成功、ということにしたい。

しかし、まだまだ問題は続くのであるが.... 。
 
 

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