アンプリファイアーを考える
 一体こんな書き出しで始めるのは数年ぶりだ。僕自身がびっくりいている。少なくと も6年ほど前まではこういったことを紙面のGridで盛んに述べていた。では、どうしてこういった増幅装置に対して意見なりを言わなくなったのだろうか。 むしろ口を噤んでしまったのだろうか。
 僕が感じるのは、妙な言い方かもしれないが、どれもが一つのものから脱しなかったり、八方美人になりすぎてしまったの ではないか、と考えてしまう。
 考えを抜け出せなくなってしまうと、その考え方が根幹をなしてしまって、小さいことでも自分の理論と比較検討などしな くなって、自分の理論の方向付けのみで、多分に電気関係だろうが、自分の理論を押し進めてしまう結果になってしまったりする。
 アマチュア、セミ・プロを問わず、プロ以外の方々がな、こうやればいいんですよ、というサゼッションをもう少し早く、 少なくとも江川三郎さんが数々の実験をしていた当時、オーディオ関係を取り巻く様々なことをグローバルに噛み砕いた形で発表していれば、一部のマニア然と した方々以外にも、技術的なことを知らしめることができたのではないだろうか、と考えている。
 最近でも関係雑誌に様々な形でアンプなど、オーディオ関係の製作発表記事が出るのだが、これらの多くは過去どれだけ目 にしたことか分からない。回路図が見えなくても、これは今までに見た覚えがある、などすぐに頭の中に出てくる。
 この間びっくりしたのは、MJ無線と実験誌で、真空管の300Bを使用したシングルアンプの製作記事を見て、300B を除けば僕が持っている2A3のシングルアンプと全く同じのものであったことだ。スピーカーから出てくる音もおよそ分かってくる。
 僕のアンプは基本を僕が設計し、それにまつわる二つの案を高知は中村在住の安原さんに提示していただき、ネガティブ フィードバックなしの回路を採って製作した。真空管もGZ 34とEF 86それに2A3だ。GZ 34で整流し、EF 86で最初の増幅、2A3で出力トランスに送り込む、という簡単なアンプだ。初段管のEF 86は作ってしばらくしてEF 37に変更した。このアンプは分かる人が知れば分かる、という通好みのアンプに仕上がっている。
 それでは、どうしてアンプという増幅装置のことをここにきて出さないとならないのか。残念なことに、冒頭申し上げたよ うに、現在では音響増幅装置はそのシステムの中に取り入れられている、と多くの方が思われている。テレビジョンでもそうだ。アンテナ張って、線を接続し て、スイッチを押してリモコンで操作すると、音が出る。CDでもカセットでも、イヤホーンなりスピーカーが付いていれば音が出る。
 本当にそうであろうか?。これは本当だ。しかし、どうやって見えないものを取り込んで音が出るんだ、と考えたことはな いだろうか。実に不思議なことだ。それを簡単に書き記したものは、最近ではほとんど見かけない。冒頭申し述べたことがこれだ。
 それでは、オーディオ関係でこういった音として現実に耳に達するまでのことを少し記すことにしよう。
 CDプレーヤーでヘッドフォーンの音を大きくしたい、と大きいスピーカーに接続しても音は出ない。必ずアンプが必要な んだ。音楽信号を電気的に増幅する装置が必要なわけだ。オーディオ関係では段階ごとに増幅を行うことになっている。
 最近注目されているアナログディスク、通称レコード盤だが、これに針を通してその信号をCDと同じように音として聞こ えるように再生することはできない。本当に小さい振動をまず増幅する。それをCDとか、カセットテープとかと同じ段階の増幅へ持っていくことになる。つま り、この手のディスクに刻まれた溝の変化による振動は非常に小さいものなのだ。
 したがって、この最初の増幅装置は単に振動の増幅だけではいけない。それを電気信号に変換しなくてはならない。賢明な 方はこの時点でアナログディスクの再生は非常に難しい、と気が付かれるであろう。事実そうなのだ。
 そういった基本を元にするまでもなく、少なくともCDなどのメディアを聞こえる状態にするには、少なくともプレーヤー 側で1段、メインアンプ側で2段、合計3段階増幅してスピーカーから聞こえる状態になる。レコード盤だと、最初の部分でもう一段増幅しなければならないの だ。針によっては、さらにもう1段増幅しなくてはならない。
 誰にでも分かる実験として、ヘッドフォンでプレーヤーから直接聞くのと、プリメインアンプのヘッドフォン端子で聞く音 に差がある、としたら、あなたの耳の感覚はすばらしいものだ。実際には、それほどアンプの「増幅」は難しいのである。抵抗、コンデンサー、トランジスタの 性格などが絡み合って決定される。部品の配置によっても出てくる音は異なる。信じられないだろうが本当のことである。僕は真空管を使用したアンプを多用す るのは、こういったパーツ、素子の絡みの難しさが真空管という簡素な素子を使うことで、ある程度緩和できるからだ。
 確かに、音を決定する有力なポジションはスピーカーであろう。しかしながら、それを駆動するのはアンプだ。この重要性 にずっと目を向け続けてきたのだが、書籍関係で、あたかも枝葉末端が主になってしまって、幹になるトランジスタ、トランス、真空管などが軽視されるようで ならないのだ。
 話が横道にずれた。決して真空管方式のアンプの宣伝ではない。こういったアンプのオーディオシステムの中で司るポジ ションの重要性を僕は言いたい。そういえば、カーオーディオ分野の方が現在では一般のオーディオ関係より進歩しているのではないだろうか。DC駆動だし、 キャビンをあたかもリスニングルームに変えてしまうなど、すさまじい技術である。が、それを一般家庭に持ち込んで聞くとなると、逆転することもしかりだ。
 いずれ、僕の2A3シングルのアンプ回路図も掲載したいところだが、現在改修中だ。理由の一つとして、TANGOブラ ンドの平田電気がトランス関係の製造を止める?などの報道があったからだ。実のところ、僕の2A3シングルアンプは今は無きLUXブランドのトランスを使 用している。このトランス類をTAMURAに変更すると、スピーカーを通して出てくる音は変化する。これが、重要な問題だから僕としての確認がとれないと 発表できない。手持ちの特別巻きのニッケルコアのアウトプットトランスでは、とんでもないくらいに向上した音質の音になって、そのグレードに驚いた経験も ある。
 とりもなおさず、メーカーとして究極のものを出したとしても、実際には一般家庭においては有機的なものが支配して、究 極にはほど遠いものになるわけである。こういった絡みがメーカーでは膨大な過去の積み重ねがあって、安価な製品でも世に出される製品の完成度が高いのはこ のためだ。これを、真に批評することの難しさは言わずとしれたものだ。
 とりとめのない文章になってしまった。もし、コンポーネントオーディオをやっていらっしゃる方でスピーカーに対するア ンプの地位、レコードメディアに対してのアンプの地位、これをもう一度見つめ直していただきたいものだ、と考えている。

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