リファレンス

 オーディオ仲間のF氏から「最近はヒアリング会をしなくなったネ」と言われた。そう、かつてはよく行っていました。単 純な理由で止めたんだろうか、と考えると、どうもそうではないのです。
 一つはオーディオそのものがつまらなくなってしまったこと、が上げられるでしょう。もちろん、このことには反論がある のも事実です。しかし、ピュアオーディオという、純然たる音楽面におけるレコード(あらゆる記録メディアの)再生音楽を突き詰めることがばからしい、とい うか、お金がかかりすぎる、というか、そういった類のものが多くの面で表面化しているのが実状ではないでしょうか。
 真空管アンプにしてもそうです。降って沸いたように、この日本で活発になったせいかしら、真空管そのものは再生産され 始めましたけど、やれ300Bの音はどうだ、この300Bの方がいい音がする、とか、まことしやかに公表される始末。肝心の音楽信号に変換する装置である アウトプットトランスのことは一切言われない。
 そのことなど、とても高価になったラジオ技術誌の3月号などに、300Bのオンパレードが出てましたけど、どうも記載 がない。もっともたるものです。おそらくどこかに記入はあるんですよ、「トランスなどの要因も考えられるが」って。
 僕は失火で多くのものを失ったんで、保険金から再生するにはどうするかってことで、真空管アンプから再びレコード音楽 鑑賞を開始しました。それ以前から「こういった音が僕にとってはいい音なんだ」というものがありますから、現在の機器でもそういった方向を目指します。
 冒頭のヒアリング会で蘊蓄を申してケンケンガクガクになりそうなこともありましたし、会場をお借りするお宅ででも、数 人が深夜にまで及んで大きな音で音楽を流すこと自体に、主宰の僕としては割り切れないものがあったわけです。
 さて、人間の耳というのはおそろしいもので、神経系統を通して心の中にしっかりと記憶されている音、というのがありま す。音楽、特に多くの西洋音楽にしても同様に記録されているのは事実です。僕の場合はウエスギアンプで出される音がそれに当たります。もっとも、サンヨー のOTTOでの音が、失火後に作ったLUX KitのA3600で出された音と同じだったんです。ただし、宇神氏から借用したA505のプリアンプの音に満足できませんでしたが、少なからず出てきた 音というのは心にあった音のイメージに近いものだったんです。そこから発展したのが今のシステムなんです。
 ところが、最近ではどうもこういった自身の音というものが無くなってしまっている機器が多いのではないでしょうか。 はっきり申し上げてコマーシャルの標語にもあるような流れがモデルチェンジの毎に実際の音として出されるわけですね。かつてはこういった流れもメーカーに よって芯が通っていたように感じました。今はどうも無いようですね。ピュアオーディオは不滅です、といいながら、AVの技術がクロスオーバーになってい る。スピーカーにしても高能率のものは少なくなっている、こういった現状の中で、真に自分のリファレンスを通すことなんか非常に難しいわけです。したがっ て、オーディオ関係雑誌もあまりヒットしてないようですよね。
 オーディオを例に出しましたが、自動車でもそうでしょう。T社のこういったところが自分に合っている、と感じている し、新車発表会に出向き試乗してみたりして確認したりする。雑誌を読んで予想したりする。しかし、そのメーカーのポリシーと自分のリファレンスが一致する ところが知らず知らずのうちに必ずあるはずです。だからメーカーを変えるなんて時は躊躇するはずですよね。
 僕としては、この歳になってどうのこうのできないのですが、やはり今の基準を壊せない。若い人にはこういった経験を十 分に積んでいただいて、自分なりのリファレンスを築いていただきたいのです。
 そして、こういったモノを通して人との交流を行っていただきたい、と感じています。ただし、これにはリファレンスはあ りません。人の考え方は千差万別です。それらのいいところをとってよりよいモノにしていこうとしたりするのですから。

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